第2回では、富士通グループの東日本大震災における対応事例を紹介しつつ、代替戦略の必要性と、ソフト的な代替手段の確保について紹介した。BCP(事業継続計画)は、復旧計画だけでなく代替手段を備えてこそ、想定外に対応できる。そして代替戦略とは、設備二重化などハード面への大規模な投資を直ちに意味するものではない。むしろ「対応行動をいかに早くできるか」といったソフト的な手段を念頭に調査・検討するべきであると述べた。

 予測不能の危機状況を想定するに当たっては、代替手段のオプション(選択肢)を事前にできるだけ多く検討してこそ、早期再開につながる。多大な費用をかけるだけではなく、頭を使って代替手段を数多く用意することの重要性をご理解いただけただろうか。

 ソフト的な検討や対策の必要性は、実は代替戦略にとどまらない。BCP策定にも関わる。そこで今回は、およそ1年前の東日本大震災をどのように振り返ればソフト的な手段の起案につなげやすいのか、また、2011年夏から秋にかけて大きな経済的損失をもたらしたタイ洪水をどのように振り返ればよいか、といったことを具体的に解説していこう。

BCPとは「迅速な行動を支援する」もの

 東日本大震災発生時に見舞われた当時、BCPを持っていた企業は僅かであった。BCPを持たない企業のほうがはるかに多かった。では、BCPがあった企業ほど素早く業務再開し、BCPが無かった企業はいつまでも業務再開ができなかったのだろうか?

 答えは否である。業務再開のスピードを左右するのは、一に「被害の程度」、二に「その企業や組織の本来的な行動スピード」であって、ただ単にBCPを作るだけで組織行動のスピードが大きく変わるわけではないからだ。

 もちろんBCPとは、対応行動のスピードを上げる手段でなければならない。ところが多くの企業のBCPでは、やたら細かいルール作りにこだわって分厚い行動手順を作ったり、被害想定や事前対策だけを検討したりしていたのが実情である。

 こうした姿勢でBCPを策定したのではかえって、危機発生時の行動に遅れを招きさえする。この背景にあるのは「BCPとは緊急事態における各人の行動を規定するものだ」という誤解の蔓延である。

 本来あるべきBCPとは「緊急時に『必要な行動』を『できる限り迅速に』行えるようにする」ものである。もちろん多くの企業ではBCPを作る過程で、「必要な行動」を詳細に洗い出しているだろう。しかしその行動を「できる限り迅速に行う」ことが軽んじられているのではないか。

 大規模地震のような広域災害では、様々な事象が同時並行で発生し、事態は平常時の何倍ものスピードでお互いに干渉しつつ変化していく。平常時とは全く違うスピードで次々と想定外の事態が進行するなかでは、必要とされる組織の対応スピードも平常時よりはるかに高速だ。

 そもそも現時点の組織の対応スピードが速いのか遅いのかを、組織責任者は理解しているだろうか?もちろん絶対的な時間の計測は不可能であるし、被害の程度に応じてもスピードは変化する。

 とはいえ、ある状況を想定したうえでのスピードを相対的に速めることは現実的に可能だ。では、「できる限りに迅速に」を実現するための配慮とはどのようなものだろうか。

 答えは簡単だ。「無駄を省く」ことである。

 大規模災害などでの緊急対応行動は無駄の連続である。「連絡すべき相手と連絡が取れない」「参集すべき要員がいつまでたっても集まってこない」「必要なデータがなかなか復元できない」「設備業者が来てくれない」――などだ。

 いくら事前の計画があっても、こうした阻害要因は次から次へと発生し、行動を邪魔する。スピードのある緊急対応とは、こうした阻害要因を取り除いた「無駄の少ない対応」にほかならない。