「真っ暗な海の中で灯台の光を見つけたような気持ちだった」---ヤマジュウの工藤文彦社長は振り返る。北海道厚岸郡浜中町霧多布で鮭の加工販売を手がける同社の工場は東日本大震災の津波の直撃を受け、全ての加工設備と原料を失った。現在、セキュリテ被災地応援ファンドを通じた出資と寄付により加工機械の購入にこぎつけ、工場再建への道を見出しつつある。

「届いたのは機械ではなく、皆さんの気持ちだと感じた」

 北海道が選出する「北のハイグレード食品」にも選ばれたヤマジュウの「北海道きりたっぷ網元浜中丸 時不知鮭焼きほぐし」。被災してからも「お客さんが『お前のところの鮭じゃないとだめなんだ』と、生産を再開できるかどうかもわからないのに、代金を置いていってくれた。何十人ものお客さんが」(工藤氏)。しかし、北海道の被害に対する国の支援は遅れており「公共の被害に対しては財政援助が受けられるようになったが、民間の被害は対象外」(工藤氏)。再建資金調達のめどが立たずあきらめかけていた中でセキュリテ被災地応援ファンドのことを知り「藁にもすがる思いで連絡したら、すぐに来てくれて再建計画を一緒に考えてくれた」(工藤氏)。ヤマジュウは2011年11月に出資の募集を開始した。

 2012年2月24日に東京で開催されたセキュリテ被災地応援ファンドの説明会で、工藤氏は「皆さんの資金で輸入することができた加工機械を目の前にして、恥ずかしい話だが、機械に抱きついておいおいと泣いてしまった」と目を潤ませながら語った。「届いたのは機械ではなく、皆さんの気持ちなんだと感じた。皆さんの気持ちが詰まったこの機械で、漁師が命をかけてとってきた鮭を、命をかけてうまい商品にする」と意気込む。

写真●北海道厚岸郡浜中町霧多布のヤマジュウ 工藤文彦社長
津波で鮭の加工工場が被災、セキュリテ被災地応援ファンドを通じた支援を受けた
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 説明会には、ヤマジュウのほか、岩手県陸前高田市で200年間醤油などを醸造し続けてきた「八木澤商店」(関連記事)、福島県西白河郡で慶応元年(1865年)から日本酒を作る「大木代吉本店」、宮城県気仙沼市で唯一の製麺工場を営む「丸光食品」、宮城県名取市で水耕栽培による農業再開を目指す「さんいちファーム」が参加し、それぞれの自慢の製品や、事業再建への思いを語った。多くの出資者が集まり、立ち見も出る状況となった。

写真●東京で行われたセキュリテ被災地応援ファンドの説明会
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写真●岩手県陸前高田市の八木澤商店
200年以上醤油や味噌を製造してきた老舗。この日はめんつゆを持参し参加者に供した。震災では津波により全ての設備、原料を失った
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写真●福島県西白河郡の大木代吉本店
慶応元年(1865年)から日本酒を製造している同社は、料理酒を使ったケーキなどをふるまった。震災では14棟あった蔵のうち、5棟が全壊し、5棟が大規模半壊、4棟が半壊した
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