本連載は、2010年7月から日経情報ストラテジーに掲載されたものです。2012年の現在でも通用するヒントを含んでいるため転載します。

 ウェブで商品やサービスの購入・申し込みを増やすには主に2つの壁がある。1つ目がウェブサイトへ見込み客を誘導することであり、ここはヤフーやグーグルなどの検索エンジンを利用したSEM(検索エンジンマーケティング)のコンサルティングで私がお手伝いできる領域である。

 2つ目がウェブサイトのデザインだ。見込み客の訪問数の増加を、商品やサービスの購入・申し込み増加に結びつけられるデザインになっていないケースが少なくない。

 例えばトップページの見栄えは良いのに、広告のリンク先である肝心の商品やカテゴリーのページが貧弱であれば、出稿できるキーワードも限られ、リスティング広告による集客の限界となってしまう。こうしたときにサイトの一部もしくは全面的なリニューアルが必要となる。

 ところが何度リニューアルをしても、成果が上がらない“失敗体質”の企業が少なくない。リニューアルの目的をあいまいにしたまま提案を募る企業のことだ。そういう体質の企業は制作会社のコンペをしても、コストが安い提案や、デザインやアイデアが奇抜なだけの提案を採用しがちである。

 本来は制作会社を何社か集めてコンペを行う際に、リニューアルの目的や、その実現のために必要となる要件を定義したRFP(提案依頼書)を用意するのが、発注の正しい段取りといえる。そのRFPに基づいて提案の質が競われるべきだ。例えば、リニューアルの目的が「購入や申し込みへの動線の改善」なのか「商品やサービスに関する情報の充実」なのかといったことがRFPで明示される必要がある。

 しかしながら実際には、コンペの前に懇意にしている制作会社にいくつか「試案」を出させ、それを基に後付けで企画書や稟議書を作る発注担当者さえいるようだ。また、明確に要件が定義されないままリニューアルが行われた場合、その後も、発注担当者の好みで感覚的にページのレイアウトが変更されてしまうことが多い。

 当然、このように目的があいまいなリニューアルには、どんなに多額の費用をかけたところで、大きな成果は期待できない。そういう発注者は選んだ制作会社に不振の責任を押しつけ、数年おきに業者を変えては同じ失敗を繰り返すことになる。

 ある企業では、制作会社からの提案を受け、巨額の費用をかけて新サイトを構築したものの、リニューアルされないまま放置されていた。聞けば、新たに導入されたシステムが既存の業務フローに合わないと分かり、頓挫しているのだという。株主からは経営責任を問う声も上がっているというから、こうなると、もはや笑い話では済まされない。

泉 浩人(いずみ ひろと)氏
ルグラン代表取締役
泉 浩人(いずみ ひろと)氏 慶應義塾大学経済学部卒。米ジョージタウン大学MBA。三井銀行(当時)、米オーバーチュア(同)を経て、2006年にデジタルマーケティングに特化したコンサルティング型代理店ルグラン(www.LeGrand.jp)を設立。著書に「SEM成功の法則」(ソーテック社刊)、「クリック!指先が引き寄せるメガチャンス」(監訳・イーストプレス刊)など。