本連載は、2010年7月から日経情報ストラテジーに掲載されたものです。2012年の現在でも通用するヒントを含んでいるため転載します。

 iPhoneやアンドロイド携帯などいわゆる「スマートフォン」により、かつてないほど自由にインターネットへのアクセスができるようになりつつある。

 ブラウザを搭載し、無線LANや携帯電話回線に対応した通信機能を持つスマートフォンは、ウェブサイトを閲覧したりサービスを利用できたりする点で、基本的にはパソコンと遜色ない。

 とはいえ画面が小さく、キーボードやマウスが使えないため、そのままでは使いづらいことも少なくない。そこでスマートフォンの使い勝手を改善しようと様々な「アプリ(アプリケーション)」が開発されてきた。よく使う機能をボタン1つで利用できるなどの工夫がされたものだ。Twitter(ツイッター)用アプリはその代表例で、つぶやいたり、他人のツイート(つぶやき)をチェックしたりする操作を楽に行える。

 だが米国では、こうした操作性を高めるためのアプリに加え、別な種類のアプリも注目を集めつつある。それは自社の商品やサービスに関する情報提供を目的に企業が提供する、広告・宣伝用のアプリである。米GAPのアプリや、米GMの「キャデラック」のiPad用アプリなどが話題になっている。

 アプリはソフトウエアであるから、ウェブサイトに比べると、表現上の自由度が格段に高い。必要があればいつでもネットに接続できるので、アプリ上でユーザーに商品を選択してもらい、購入手続きの時だけネットに接続させることが可能だ。

 こうした特性を指してアプリを「URLの無いウェブサイト」と呼ぶ動きがある。すなわち、これまでの「検索経由でウェブサイトに来訪する」というネット上の“導線”が、「アプリをダウンロードして、商品やサービスの情報を入手する」というものに変わる可能性があるのだ。iPad(アイパッド)のようなタブレット端末の普及もこの傾向に拍車をかけるかもしれない。

 こうなるとサイトへのトラフィックの誘導だけでなく、自社のアプリをダウンロードしてもらうこともマーケッターの重要な課題になる。見た目のデザインや使いやすさは、競合他社のアプリに対する差別化要素となるだろう。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などのソーシャルメディア上で、自社のアプリに関する口コミが広まるような仕掛けも必要になると思われる。スマートフォンのOS(基本ソフト)の進化に合わせて、アプリに新機能を追加する技術力も当然重要だ。

 このように、アプリは近い将来ネットビジネスのルールを根本から変える可能性がある。既に米国ではアプリ開発が新たなビジネスチャンスとして注目を集めている。

泉 浩人(いずみ ひろと)氏
ルグラン代表取締役
泉 浩人(いずみ ひろと)氏 慶應義塾大学経済学部卒。米ジョージタウン大学MBA。三井銀行(当時)、米オーバーチュア(同)を経て、2006年にデジタルマーケティングに特化したコンサルティング型代理店ルグラン(www.LeGrand.jp)を設立。著書に「SEM成功の法則」(ソーテック社刊)、「クリック!指先が引き寄せるメガチャンス」(監訳・イーストプレス刊)など。