新・14カ条も最後の条項となりました。旧・十四か条では「電子民主主義の準備をせよ」としていました。この「電子民主主義」という言葉はどういう意味なのかと思われた方も多いと思います。
「電子民主主義」にはまだ確立した定義はありませんが、私は「民主主義には住民の政治・行政への参加と、政治・行政の情報の透明性の確保と住民への全面的な提供が不可欠であり、それをICT技術によって補強された状態」という意味で使っています。
旧十四か条を考えた2005年当時、国政選挙でも地方選挙でも投票率は低下を続けており、また、政治や行政の情報公開も十分ではない状況にありました。一方、住民の側からすると、自分たちが何を言っても政治や行政には反映されないという諦めにも似た気持ちを持った人もいました。
そのころまでに地方自治体は「平成の大合併」が終わり、自治体の人口規模が大きくなり、住民の声もますます届きにくくなっていました。
それを補完する仕組みとして私が注目したのが、韓国ソウル市の江南区などで行われていた“e-democracy”という名のICT技術を活用した住民参加の仕組みでした。
IT化は直接民主主義的要素を復活させる
江南区役所では市民アンケート会員に30万人ほどが登録していて、年齢や職業などの情報も登録してあります。個別の政策の立案の際には、関連が深いと思われる人を5000人ほどピックアップしてアンケートをとっていました。また、全体の予算案について、どの政策がより優先順位が高いかについても意見を聞き、支持が低い項目は予算案から外して議会に提出するということをしていました。
当時の区長は、「このシステムを使って民意を確認しているので、予算を議会に提出しても、住民のアンケートをきちんととっていない区議会は、ほとんど反論ができない」と言って笑っていました。このシステムはすでに完成していて、日本の自治体にも無償で提供されるとのことでした。
故・小室直樹氏は、ブログやツイッターなどがはやるずっと前から、IT化が現代の民主主義に直接民主主義的要素を復活させると喝破していました。しかし地方自治において、ICT技術を活用すれば古代ギリシャ以来の直接民主主義に近いものが実現できるかもしれないという発想は、当時の日本には全くありませんでした。
そこで、ICT技術を使うと住民の政治や行政への参加が飛躍的に進化する可能性のあることを意識していただき、現実的な政策から実行していただこうという意味で、旧・十四か条では「電子民主主義の準備をせよ」としたのです。
2005年 | 2010年 | |||
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第1位 | 香川 | 71.7 | 神奈川 | 86.5 |
第2位 | 東京川 | 62.2 | 東京 | 83.6 |
第3位 | 神奈川 | 59.7 | 京都 | 82.4 |
・・・ | ・・・ | ・・・ | ||
第45位 | 沖縄 | 31.3 | 青森 | 67.7 |
第46位 | 富山 | 30.0 | 秋田 | 66.9 |
第47位 | 青森 | 26.8 | 高知 | 66.7 |
その後、5年が経過し、新・14カ条に書き直した2010年春の時点では、インターネットの人口普及率は飛躍的に向上しました。20歳代から60歳までの人は、何らかの形でほとんどインターネットを利用しています。また、都市部と地方の差はまだありますが、高齢者を除けば、その差異はだいぶ縮まってきたと思います(表)。
また、ヤフーなどのサイトでは、重要な政策テーマについて、賛成・反対についてのアンケートが行われるようになっていました。この結果を見ると、新聞などの世論調査とはかなり違うことも多く、どちらがより住民の考えを反映しているのかはわかりませんが、低コストでかつ非常にタイムリーにアンケートが行えることは大きな利点だと思います。
このような状況の変化に加えて、2010年春の時点では民主党政権が始動していて、当時の原口総務大臣が華々しく各種構想を打ち上げていた時期だったので、大きな期待も込めて、新・14カ条では「電子民主主義システムを導入せよ」としました。