“コホートツール”を内製

 「本には書かれていない部分」の一つが、Lean Startupの3段階のプロセス(構築、計測、学習)のうち、計測プロセスにおける評価の仕方である。

 Lean Startup論の計測プロセスでは、「コホート分析」に基づく数字の把握が推奨されている。コホート分析とは、「人生の一定時期に同一の重大な出来事を共有している人々の集合」(コホート)を変動要因として考慮したデータ分析手法である。同分析を使うことにより、時系列でリリースの善し悪しを判断しようというわけである。

 ただし、「Webサービスでは、実際に測定しようとすると“ノイズ”が多いうえ、あるデータの変化が有意なものかどうかまでは書かれていない」(石田氏)。仮説を検証するときには量的な予測を持つことが推奨されているのだが、その具体策については読者に委ねられている形だ。

 クックパッドの場合「データが、特定の値になったら有意とみなす」として運用しているという。しきい値を定めることで、無駄な議論をなくそうという狙いがある。「共有する数字がないと、感情に基づいた議論になってしまう。この時間が無駄だと考えた」。同社は、この共有データを導くための“コホートツール”を作製し、活用しているという。

 もう一つの「本には書かれていない部分」が仮説作り。仮説に基づいた検証の重要性については繰り返し述べられているものの、「その仮説をどうやって作るかが難しい」という。

EOGSシートが補完

 クックパッドでそれを補っているのが、「EOGS」(Emotion Oriented Goal Setting)と呼んでいるシートだ()。このシートは、対象ユーザーを決め、その要求を定義し、解決方法を見付けて実行、さらに数字に基づいた分析ができることを目的としたものである。このシートは、Lean Startup論を導入する以前から新サービスの明文化のために使っていたものだが、「Lean Sgtartup論と全く一緒の構造」として新サービスの開発時に活用されている。

図●新サービスの開発時に使われているEOGS(Emotion Oriented Goal Setting)シート
図●新サービスの開発時に使われているEOGS(Emotion Oriented Goal Setting)シート
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 EOGSシートを使う最大の効果は、「本当はこういうことがやりたかった、という洞察が深くなること」(石田氏)という。ユーザーの要求や解決方法などを明文化する効果があるというのだ。

 クックパッドの取り組みは始まったばかりだが、これまでの実践を振り返り、「無駄を切り捨てるようなプロセスが大事」とする。スタートアップでは、短期間での開発と軌道修正が重視される。仮説が正しいかどうかを判断する作業や議論に時間がかかるので、このプロセスを効率化する、というのが肝心だというのだ。「佐野社長は、たくさんの経験を基に、何をどうすればいいかが分かっていた。Lean Startup論は、属人的な判断や決定プロセスを標準化するものだと考えている」(石田氏)。

 Lean Startup論の広がりと共に、クックパッドのような実践に基づいて語れるスタートアップ企業が増えていくだろう。