スマートフォンやクラウドの台頭を背景に、このところ起業に向けた動きが盛んになっている。起業家や起業予備軍が集まる勉強会や交流会は毎日のように催され、数百万円を出資し数カ月単位でサービスの開発に取り組む起業支援プログラムも実施されている(写真1)。
それと同時に、起業の成功率を上げようという方法論にも注目が集まる。具体的には、「Lean Startup」や「顧客開発モデル」と呼ばれるものだ。これらの方法論を、組織として導入する企業も登場し始めた。
スタンフォード大学を卒業し、シリコンバレーおよび起業事情に詳しいネットイヤーグループCEOの石黒不二代氏は、「起業は、一部の人しか成し得ない“アート”ではない。やり方を身に付けることで再現できる“サイエンス”だ」と表現する(本記事の最後にある別掲記事)。Lean Startupや顧客開拓は、起業を成功に導くためのプロセスと言えるだろう。
「Lean Startupは、無駄を省くプロセス」
「Lean Startupとは、ゼロから事業を立ち上げるためのプロセスであり、起業に伴うリスクを大幅に削減する」。こう語るのは、日本国内でLean Startupの考えを広め、実践する活動を進めている「Lean Startup Japan」代表の和波俊久氏だ(写真2)。
和波氏は「起業における最大の無駄はニーズがないこと。あるいは、ニーズはあるけど解決できない方法で解決しようとしていること」という。この無駄をできるだけ省くために、仮説に基づいて検証し、修正点があればピボット(修正)する。確実なユーザーニーズを見付け、最終的には収益が得られるように、このサイクルを繰り返すこと。それがLean Startupの基本的な考えになる。
同氏は、日本における起業活動をみて、Lean Startupを実践する上での注意点があるとみている。代表的なものが、仮説と検証を繰り返す際のスピード感が十分でないこと。その理由が「サービスを始めた後、何をどう測定すればいいのか、分からないこと」。さらに同氏は、「初めて起業する人ほど、Lean Startupなどの方法論の重要性を理解していない」と指摘する。初めて起業する人ほど、アイデアを実装すれば顧客はすぐに見つかると信じる傾向があるという。
エリック・リース氏が提唱するLean Startupのベースの一つとなっているのが、スタンフォード大学などで教壇に立つスティーブ・ブランク氏の「顧客開発モデル」とされている(ITproの同氏の連載)。顧客開発モデルは、「顧客発見」「顧客実証」「顧客開拓」「組織構築」という4個のプロセスを経て、真の顧客を見付ける。Lean Startupでは、この顧客開発モデルと、ソフトウエア開発におけるアジャイル開発を組み合わせることにより、短期間で仮説の検証とピボット(小さな方向転換)を繰り返し、繰り返しが可能なビジネスモデルを発見する。