フィリピンの通信事情を象徴的に表すのが、なかなかつながらない携帯電話サービス。例えば、相手の声は聞こえるが、こちらの声が届いていない、またその逆、といったことは日常茶飯事である。「片通話のようなのでかけ直します」と電話を切ったり、音質が悪く、通話相手が何を言っているのかよく聞き取れないということが、当たり前に起こる。
SMS(ショートメッセージサービス)の遅延や不達、接続ができないといったことも多い。でもこの品質に慣らされてしまうと「ああ、またか」であきらめられるようになる。

これは外資の参入規制や、通信関連の法規制が多く、競争が進んでいないことが一因だ。1位事業者が約70%のシェアを占めており、なかなか品質問題は解決しそうもない。
フィリピンの特徴で二つ目に挙げたいのが、日本ではお目にかかることのない携帯電話端末のバリエーションだ。フィリピンは7100以上の島からなっており、固定通信インフラの普及率が低い。通信手段としては無線が圧倒的に便利で、携帯電話や、パソコン用のUSB無線モデム、モバイルルーター、無線LANサービスなどが主役である。
SIMロックフリー端末も入手しやすく、携帯電話の契約形態は、約70円から購入できるプリペイド契約が圧倒的に多い。現地の新聞によれば、プリペイド契約のユーザーが7800万件いるのに対して、後払い契約のユーザーは250万件に過ぎないという。
端末は、iPhoneやGalaxyなどの最新スマートフォンも見かけるが、給与の数カ月分もするため一般ユーザーには高嶺の花だ。一般ユーザー向けには、なんとなく発音がiPhoneに似ているローカルブランドの「マイフォン」といった低価格帯の端末が普及している。
また、SIMロックフリー端末は転売しやすいため、中古端末ショップや端末修理の業者も多く見かける。こちらの業者を見ていると、修理を依頼されたらどんな端末でも、中身をバラバラにしてはんだごてで直してしまう。その技術には感心するばかりだ。
最後に挙げるのは、通信障害時の対応の違い。基本的にいつ復旧するのか見当がつかない。ユーザーと話してみると、電話回線が1週間以上使えなくなる事例はざらにある。そのため重要な回線は必ず2系統以上のルートを確保しておくといった工夫が必要だ。
こちらでは銅線を転売するために、通信用の幹線ケーブルを盗むものがいる。道路工事で光ファイバーケーブルが切断されることも多い。これらに遭遇してしまったら「運が悪かった」とあきらめるしかない。事業者に対して強く文句を言うことは、心証を害するだけで逆効果の場合もあるようだ。とはいえ、言わなければ回復しない。適切な対応が難しいところだ。