図1●コミュニティークラウドを成功させる三つのポイント
図1●コミュニティークラウドを成功させる三つのポイント
「標準化」と「カスタマイズの余地」のバランスを取る必要がある
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 先行事例から、コミュニティークラウドを成功に導くポイントは三つに集約できる(図1)。

 まず、着手しやすい業務、分野を選ぶことだ。卸が使うInforexは「商品情報の共有」に目的を絞り、手を組んだ。各社が業務の負担に苦慮しており、「企業間の競争に関係しない分野」との見方で一致していた。

 東急建設などが進める建設クラウドは、プロジェクトの工程管理や原価管理など、ゼネコンの本業に不可欠な基幹系システムをクラウド化するものだ。だが建設業界は、「共同受注が多く、もともと協業する機会が多い業界」(東急建設の青木部長)。このため、基幹系の共同利用に抵抗感は少なかったという。

 二つめのポイントは、参加企業間で業務をできる限り標準化することだ。標準化が不十分だとシステムが肥大化し、ITコスト削減の効果が薄れてしまう。それどころか、開発が長引く要因となり、プロジェクト失敗の原因につながりかねない。

 東急建設などの建設クラウドは、NECが開発した建設業向けパッケージを基に、設計に2年近くを要した。特に4社間での業務プロセスの標準化に時間をかけたという。標準化のため、各社はほぼすべての業務プロセスを互いに開示。この結果、工期管理や原価計算、帳票など、業務の7割以上を標準化できる見通しが立った。

 鹿銀のKeyManの場合、「規制業種であるため、地銀間で業務プロセスはかなり似ている」(水主室長)という事情があった。それでも参加する各行とは約1年をかけて、鹿銀がシステム化した業務プロセスとのフィット&ギャップ分析を実施した。その結果を利用して、業務やシステムの調整や開発を進めた。

 三つめのポイントは、コミュニティークラウドを利用する企業ごとに、機能をカスタマイズできる余地を残すことだ。建設クラウドでは、2~3割の機能はカスタマイズできるようにした。

 例えば、帳票や画面の7~8割は標準化し、一部の項目や表現などを個別にカスタマイズできるよう開発を進めている。社内ユーザーに違和感なくシステムを利用してもらうのが目的だとしている。

“ガラパゴス”より連携メリットを優先

 コミュニティークラウドが登場する前から、業界の大手企業が基幹系システムを共用化して協業に生かす例はあった。航空業界はその一つだ。業界内の提携や再編が加速した結果、システムを通じて業務連携を円滑にし、提携効果を生み出す需要が高まっている。

 なかでも利用社数を伸ばしているのが、スペインのアマデウスが提供する「Altea」(アルテア)だ。ユナイテッド航空やルフトハンザ航空などスターアライアンスの加盟社が相次ぎ採用。全日空も2015年に、大半の業務を自社の基幹系システムからAlteaに移行する決定を下した。他の航空連合でも、スカイチームが業務システムの共同構築を検討しており、年内にも当面の方針を示す。

 Alteaは2004年の一部システム稼働から機能を順次拡充し、利用社数は110社を超える。仮想化など最新技術によるIT基盤刷新に取り組んでおり、2012年までにクラウド環境に移行する計画だ。

 全日空はAlteaの利用に合わせ、「海外航空会社の先進的なサービスを取り込む」(IT推進室開発推進部の新郷雅史副部長)と意気込む。例えば、トラブル発生時の便の振り替え作業を、人を介さずに電子チケットの発行で対応する。システムを共用する提携先と、共同運行の座席販売や乗り継ぎなどの手続きを円滑に連携できるようになるメリットは大きいという。

 自社開発した現行の基幹系システムには、座席割りといったカウンター業務を支援する機能など、日本のサービスに合わせた部分もある。だが全日空は「“ガラパゴス”仕様を維持するよりも、業界の先進的なサービスを導入できるメリットのほうが大きい」(新郷副部長)と判断した。