コミュニティークラウドの第2段階である、企業間の協業を志向しているのが西鉄ストアだ。

 西鉄ストアがノーチラス・テクノロジーズと共同でクラウド上に構築しているのは、POSシステムなどと連携して商品の仕入れや販売実績、原価などを管理する基幹系システムである。単品かつ日次の原価管理を目指し、オープンソースの分散バッチ処理ソフト「Hadoop」を利用している。

 クラウドに実装する狙いは、「毎日のデータ処理が閉店後の2~3時間で終了する」(ノーチラスの神林飛志副社長)という処理能力を生かし、複数の地方スーパーと連携した共同マーケティングを実施することだ。売れ筋商品情報や分析結果を互いに交換すれば、「販売が見込めるにもかかわらず、これまで扱ってこなかった商品を新たに販売する」といった行動につながる。

 情報の分析精度の向上も期待できる。複数のスーパーが協力して同一商品の販売情報を収集すれば、情報量が増え、対象地域も広がる。地域ごとの違いなど多角的な分析も可能になる。

 九州に商圏が限られる西鉄ストアにとって、「マーケティング力の強化は大きな課題」と、情報システム部の濱田孝洋氏は強調する。例えば東日本大震災の直後は、急激な需給変化に対応できず、大手スーパーよりも欠品が目立つケースがあったという。

 複数の地方スーパーがクラウドを通じて協業すれば、大手スーパーに伍していくための情報分析力を磨き、欠品を防いで売り上げを伸ばせる。西鉄ストアはコミュニティークラウドにこんな期待を寄せる。

 濱田氏は、「他の地方スーパーも我々と同じ課題を抱えているはずだ。互いに連携して情報分析力を高め、商品調達やマーケティングなどの強化に活用してほしい」と話す。

取引分析で融資先を「お見合い」

 第1回で触れた鹿銀のKeyManも、第2段階のコミュニティークラウドだ。地方銀行も商圏が限られており、西鉄ストアと置かれた状況は似ている。

 KeyManは融資先が開示する財務情報のほか、取引先の情報や取引内容、支店の担当者が得た営業情報など、地銀の営業活動で扱うあらゆる融資先情報を収容する。十八銀などKeyManを利用する他行も、同じ仕組みで顧客情報を管理している。

図1●鹿児島銀行の「共同利用型KeyMan」を利用した協業のイメージ
図1●鹿児島銀行の「共同利用型KeyMan」を利用した協業のイメージ
同じシステムで融資先の経営情報やリスク指標などを管理する点を生かし、担当営業同士が連携して、融資先の取引開拓・協業を支援する
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 この情報を使って協業を進めていくというのが、鹿銀が描くイメージである(図1)。

 鹿銀の融資先である部品メーカーA社が、「製品の納入先を広げたい」と考えていたとする。鹿銀はA社を支援するために、「A社に近い属性の取引先を多く持つ企業を検索してほしい」と、協業する地銀に依頼。協業先は自行の顧客情報のなかから、条件に合致する取引先候補を探し出す。「手形取引は決済まで3カ月以内を希望する」など、取引条件を絞って検索することも可能だ。

 KeyManを通じて、取引先の候補となるB社が見つかったらA社に紹介。条件にかなうかどうかなどを踏まえて、両社で商談を始めてもらう。