鹿銀をはじめとする各社がコミュニティークラウドの構築に相次ぎ乗り出したのは、情報共有や協業に利用できるという特徴を事業強化に生かせるとみているからである()。

表●コミュニティークラウドの構築例
表●コミュニティークラウドの構築例
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 九州を地盤にする西鉄ストアはコミュニティークラウドとしての利用を前提に、クラウド上で動作する基幹系システムを開発している。2012年の稼働時には、他の地方スーパーも利用できるようにする。販売実績など一部情報を共有して、共同マーケティングに活用していく考えだ。開発はITベンダーのノーチラス・テクノロジーズと共同で進めている。

 東急建設など4社はNECと共同で、クラウド上で動く建設・土木業向け基幹系システムを開発している。2013年度の稼働開始を目指す。東急建設情報システム部の青木秀二郎部長は、「コストと開発体制を考えると、基幹系システムを維持するにはコミュニティークラウドという解しかなかった」と話す。

 運営主体のNECはコミュニティークラウドの利用を促進するため、新たな顧客を募ると同時に、物件の施工情報を共有する機能など順次追加する計画だ。「建設会社にとどまらず、ビル内設備会社など関連企業すべてが利用できる建設・土木の総合クラウドを目指す」と、NECの建設・設備営業部の遠藤靖部長は意気込む。

 現状では、コミュニティークラウドを構築しているのは、限られた地域や業種の企業で、規模も大きくはない。だが、IDC Japanの松本聡ITサービスリサーチマネージャーは、「コミュニティークラウドが広がる余地は大きい。今後は大企業が、系列企業や取引先と協業する事例が増えるだろう。同じ業界内で、複数のコミュニティークラウドが出てくることも十分考えられる」と予測する。

業務情報を一元管理

 先行事例を見ると、コミュニティークラウドの活用は大きく二つのステップで進めるケースが多い。第1段階では、参加企業で業務情報を共有する。第2段階では、情報共有を前提として、参加企業同士の協業に踏み込む。すべての企業が第2段階を目指しているわけではなく、第1段階で十分な効果を上げるケースもある。

 国分や日本アクセス、三菱食品など大手卸8社が共同設立したジャパン・インフォレックス(JII)の「Inforexデータプール(以下、Inforex)」は、第1段階の情報共有化を目的としたコミュニティークラウドだ。野村総合研究所のSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)基盤を利用している。稼働は2006年で、先駆的な事例の一つといえる。稼働後も機能拡張を続けている。

図1●食品系卸業界が商品情報を一元管理する「Inforexデータプール」
図1●食品系卸業界が商品情報を一元管理する「Inforexデータプール」
従来は卸の営業担当が受け持っていた商品情報の収集・登録を集約。情報の質をそろえて、受発注やトレーサビリティーなどに活用する
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 Inforexは食品・酒類など食品情報の統合管理システムである。商品情報を集中管理し、卸各社が受発注や物流に使っている(図1)。中小を含む20社以上の卸や、中小・地場企業を含む4000社以上の食品メーカーが協力し、160万種類以上の商品を登録済み。名称や希望価格などの基本情報に加えて、原材料や製造ルートなど250以上のデータ項目を商品ごとに持つ。こうした情報は、商品のトレーサビリティー調査などにも利用できる。

 卸各社がInforexを使う最大のメリットは、膨大な商品情報を登録、管理する手間から解放されることだ。以前は、新商品を開拓した卸の営業担当者が情報を登録する必要があるなど、卸各社が個別に情報を収集しており、現場の負担が大きかった。

 情報収集の質を高められるのも利点だ。以前は情報の提供元によって情報が不ぞろいで、業務に必要な情報が欠けるケースがあった。メーカーからの情報収集をJIIに一本化し、情報の品質を安定させることができた。データ形式を統一する作業も進めている。

 JIIの井口泰夫社長は、「情報の品質向上は、卸の受発注や物流の効率化に役立つ。さらに小売りとの連携強化にもつながる。販促などに役立つ情報を提供できるからだ」と話す。