「銀行同士が協業する新たな事業モデルの構築を重視している。コスト削減が最大の目的だった、従来のシステム共同化とは発想が異なる」。鹿児島銀行 営業戦略部KeyMan共同化推進室の水主龍二室長は、5月に本格運用を開始したクラウド型システム「共同利用型KeyMan(以下、KeyMan)」の狙いをこう説明する。

 KeyManは鹿銀の情報系システムをクラウド化したものだ。融資先など法人顧客の管理や債権のリスク管理などを担う。鹿銀だけでなく、同行と提携した他の地銀も利用できるのが特徴だ。すでに長崎県の十八銀行と山梨中央銀行が利用しており、青森県のみちのく銀行が採用を決定したという。

 鹿銀が狙っているのは、他行との協業の基盤としてKeyManを活用することだ。同行の顧客の大半は地場の企業で、「多くは、取引を全国に広げたい、条件に合う新たな取引先を探したいと考えている」(水主室長)。しかし、鹿銀だけでこうしたニーズに応えるのは限界がある。

 複数の銀行同士が連携し、ニーズに合う取引先を互いに紹介できるようにすれば、ニーズに対応しやすくなる。KeyManはそのための基盤となり得る。

 KeyManに登録した情報を利用すれば、「顧客の要望にかなう取引先候補を他行の顧客から探して紹介する」ことが可能になる。こうした取り組みは新規の融資案件などにもつながる。鹿銀は現在、「他行にKeyManを生かした事業面での連携を働きかけている」(同)最中だ。

パブクラとプラクラの「中間型」

図1●コミュニティークラウドの特徴
図1●コミュニティークラウドの特徴
プライベートクラウドとパブリッククラウドの中間型で、今後の市場のけん引役と目される
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 鹿銀のように、主に同じ業種の限られた企業が共同利用するクラウドを構築する例が増えつつある。こうしたクラウドを「コミュニティークラウド」と呼ぶ(図1)。

 コミュニティークラウドは、一つの企業が占有する「プライベートクラウド」と、不特定多数の企業や人が利用する「パブリッククラウド」の中間に当たる。両者の良いとこ取りをしたといえる。

 コスト面では、パブリック型と同等の削減効果が期待できる。コミュニティークラウドは運営費を複数の企業が負担するからである。一方、セキュリティについては、プライベート型に迫る水準を維持できるとみられる。利用企業を限っており、通信手段を限定したり、利用者認証を厳格にしたりする対策を採りやすいからだ。

 コミュニティークラウドには、さらにパブリック型やプライベート型にはない特徴がある。参加企業間で、情報を共有したり協業したりするためのIT基盤として利用できることだ。