システム開発プロジェクトを進める上で、自社のITエンジニアだけで要員すべてを確保するのは難しい。多くの場合、PM(プロジェクトマネジャー)が協力会社の力を借りて、自社のメンバーと一緒になってプロジェクトを推進するのが一般的だ。

 協力会社の担当者に対する作業指示を出す手段は多い。設計書や指示書といった書類による指示のほか、対面や電話での口頭の指示、メールによる依頼とさまざまだ。伝えたい指示の内容や緊急度といった、その場の雰囲気などにより使い分ける必要がある。

 この指示の伝え方のうち、細心の注意を払いたいのは、口頭で伝えるケースだ。むしろ「PMとして口頭指示は行わない」という覚悟をもってプロジェクトに臨んだ方がよい。なぜならば口頭で伝えたばかりに、後々になってプロジェクト運営に大きな影響を及ぼすことがあるからだ。

初めてPMを担当したT君のケース

 T君は入社8年目でユーザー企業の情報システム会社に所属する中堅エンジニアである。入社1年目は勉強をかねてプログラミングを担当していたが、2年目からは業務系SEとしてユーザーとの仕様調整や設計書の作成といった仕事をメインに行ってきた。そんなT君が初めてPMを任されたときの出来事である。

 そのプロジェクトは、ハードウエアの更新を機に、システムを再構築するというものだった。

 システム規模はそれほど大きくないので、プロジェクトメンバーの数は、協力会社からの要員を含めて、10人程度だった。PM初体験のT君にとっては、手頃な規模のプロジェクトであるかに見えた。

 ただし小規模なシステム開発プロジェクトではあっても、PMが実務を全くやらないというわけにはいかない状況だった。そこでT君は、一部の機能について設計を担当することにした。

 プロジェクトが始まり基本設計を進めていたある日のことだ。別の機能を設計している協力会社の主担当者であるAさんから、T君は次のような質問を受けた。

Aさん:入力項目をチェックする処理はどういう方針で実装しましょうか?
T君:チェックロジックのことですね。それでは、チェックの結果が入力した時点で分かるように実装してください。
Aさん:分かりました。

 ちょうどこのころ、T君が担当する機能の設計作業は佳境に入っていた。忙しかったこともあり、Aさんにこう口頭で指示すると、T君はまた自分の作業に没頭したのだった。