Wi-Fi(無線LAN)網の利用をデフォルトとすることで料金を格安とした新たな携帯サービスが米国で始まった。米リパブリック・ワイヤレスが提供するこのサービスは、携帯網を流れるトラフィックを収入の柱とする既存携帯事業者のビジネスモデルを打ち破るものであり、携帯業界を変容させる可能性を秘めている。


 米リパブリック・ワイヤレスは2011年11月8日、Wi-Fi(無線LAN)網の利用をデフォルトとする新たな携帯サービスの提供を開始すると発表した。当初はベータ版として提供される。2012年の早い時期にベータ版のバージョン2をリリースし、正式サービスの導入に踏み切る計画である。

 同サービスの売りは、月額19ドルで音声、データ、テキストすべてが使い放題になる“超”格安料金にある。いかに価格破壊的かは、競合他社の同種プランと比較すれば一目瞭然だ。例えば米スプリント・ネクステルは月額99.99ドル、また料金が比較的安価なMVNO(仮想移動体通信事業者)の米バージン・モバイルでさえも約3倍の同55ドルである。リパブリック・ワイヤレスは契約期間の縛りや早期解約時の違約金、超過料金など約款に隠された条件は一切ないとホームページで強調している。ただし利用に当たっては専用の対応端末が必要となる。サービス開始時点では韓国LGエレクトロニクス製のスマートフォン「Optimus S」1機種のみ。販売価格は199ドル(初月の月額料金19ドル込み)である。

携帯網をバックアップに

図1●Wi-Fi網をメイン、携帯網をバックアップとする米リパブリック・ワイヤレス<br>米リパブリック・ワイヤレスと既存の携帯事業者では、携帯網とWi-Fi(無線LAN)網の主従関係が逆転している。
図1●Wi-Fi網をメイン、携帯網をバックアップとする米リパブリック・ワイヤレス
米リパブリック・ワイヤレスと既存の携帯事業者では、携帯網とWi-Fi(無線LAN)網の主従関係が逆転している。
[画像のクリックで拡大表示]

 リパブリック・ワイヤレスの携帯サービスでは、トラフィックを流すメインのネットワークを携帯網からWi-Fi網へ移すことで大幅なコストダウンを図り、格安料金を実現した。携帯網はあくまでもバックアップという位置付けだ。携帯網を利用するのは「Wi-Fiが使えないエリア」もしくは「緊急通話911の使用時」に限定している。

 このように既存の携帯事業者とリパブリック・ワイヤレスとでは、携帯網とWi-Fi網の主従関係が逆転している(図1)。リパブリック・ワイヤレスの場合、データのみならず音声もWi-Fi網利用をデフォルトとしており、VoIPを使う。ちなみに同社の親会社は米スカイプ・テクノロジーズ(2011年10月に米マイクロソフトが買収)や米グーグルなどにVoIPネットワーク/ソリューションを提供している米Bandwidth.comである。

写真1●端末の画面例
写真1●端末の画面例
[画像のクリックで拡大表示]

 リパブリック・ワイヤレスはスプリント・ネクステルの携帯網を利用するためMVNOに分類される。ただし、事業者主導でWi-Fi網利用をデフォルトとする携帯サービスは今までにない新しいタイプといえる。同社は自社のサービスを、二つの異なる動力を効果的に使い分ける自動車「ハイブリッドカー」にちなみ、「ハイブリッドコーリング(Hybrid Calling)」と名付けている。

 利用者は端末でWi-Fiネットワークの設定を行うだけで、後は特別な操作も必要なく通常の使い方で自動的にWi-Fi網へ優先接続される。Wi-Fi網利用時には端末の画面左上に緑色のアークが表示されるため、各々の通信がWi-Fi網経由なのか携帯網経由なのかが一目で確認できる(写真1)。