もちろんOpenFlowで既存のすべての課題を解決できるわけではない。OpenFlowにはいくつか“弱点”もある。例えば「アプリケーションがまだ少ない」といった部分だ。ニシラの進藤氏は「OpenFlow自体はシンプルなプロトコルなので、それ単体で便利な機能が実現できるわけではありません。重要なのはOpenFlowをどう使うかです」と語る。OpenFlowの普及には、企業が積極的に使いたいと思うようなアプリケーションの充実が重要だ(図1)。そのためには今後、「商用OpenFlowコントローラーの開発元が自社製品に搭載するアプリケーションを充実させる」「開発者がオープンソースまたは商用のOpenFlowコントローラーに手を加えやすいようなAPIの公開が増える」といった活動が必要になる。
また、ブロケード コミュニケーションズ システムズ データセンタテクノロジー本部 部長の小宮 崇博氏は「データセンターなどシステム全体の設計を考えると、OpenFlowによるネットワーク制御だけでは足りない部分があります。ストレージなども含めて統合管理できるのが望ましいでしょう」と指摘する(図1右)。
NECは自社のOpenFlow製品向けにGUIを使った設定ツールを提供している(図2)。米シトリックス・システムズはXenServer向けに、ACLやファイアウォールの設定をすると、バックグラウンドでフローエントリーに変換するGUIベースの管理ツールを提供する。こうしたツールはOpenFlowの設定には便利である。ただ、サーバーやストレージまで含めたシステム全体を統合管理したい場合は、さらに上位の管理ソフトウエア(クラウドコントローラー)などが必要だ。
今後のSDNの発展に期待
金融系などネットワークのパフォーマンスにシビアなシステムの管理者からは「現在のOpenFlow 1.1はそのままでは使い物になるかわかりません」(カブドットコム証券 社長付 IT戦略担当の谷口 有近氏)との指摘もある。OpenFlowではOpenFlowコントローラーへ多数の問い合わせが発生することがある。また、従来はできなかった特殊な処理として複雑なフローエントリーを多数書くと、その分だけ検索に時間がかかる。極めて高速なレスポンスが必要なシステムに対応できる保証はない。
とはいえカブドットコム証券の谷口氏は、「サービスに合わせてプログラミングでネットワークの構成を変えるという、OpenFlowのコンセプト自体には非常に共感するし、期待もしています」という。現状のOpenFlow 1.1の実装では能力的に不十分というだけだ。
米国などではネットワークをソフトウエアのプログラミングで制御するコンセプトを総称して「Software Defined Network」(SDN)と呼ぶ。谷口氏が期待を寄せるのは、OpenFlowという個別の技術ではなく、このSDN全体の発展だ。「例えば、スイッチ側でリアルタイムにフレームのレイヤー7までの任意のフィールドを高速に書き換えられるようになったら、顧客に提供するサービスの品質にも恩恵が出てくるかもしれません」(谷口氏)。こうした高度な機能を提供する技術はOpenFlowの拡張なのか、それともまた違う新技術なのかはわからない。だがネットワークに対するサービス側の要求が高まっていく以上、ネットワークのオペレーションにSDNの技術が使われる可能性は高い。企業ネットワークの管理者も、今後SDNの動向を注視する必要がありそうだ。
最後から3段落目の記述を、一部修正しました。