東日本旅客鉄道(JR東日本)の田浦芳孝常務取締役IT・Suica事業本部長 (写真撮影:北山 宏一)
東日本旅客鉄道(JR東日本)の田浦芳孝常務取締役IT・Suica事業本部長 (写真撮影:北山 宏一)
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 東日本旅客鉄道(JR東日本)が2001年11月にサービス開始したICカード乗車券・電子マネーサービスの「Suica(スイカ)」は2011年11月に10周年を迎えた。常務取締役IT・Suica事業本部長の田浦芳孝氏は、2010年6月に現職に就くまで人事・総務畑を歩んでいたが、十数年前のSuica検討時には、投資決裁に関わったという。田浦氏は「鉄道事業者の投資案件として異質だったSuicaが、ここまで世の中に広く普及するとは」と目を細める。

 10年間で発行枚数約3700万枚まで普及したSuicaは、乗車券として揺ぎない地位にある。だが、電子マネーとしてはまだ成長途上だ。Suicaの加盟店数(相互利用できるPASMO=パスモ、ICOCA=イコカなどを含む)は16万店ほどで、楽天系の電子マネー「Edy(エディ)」が30万店近くなのと比べるとまだ差がある。田浦氏は「街中の商店や美術館などでも、手軽にSuica決済を導入できるようにしたい」と話す。具体策として、低コストの新型決済端末の開発を進めているという(関連記事)。

 一方の乗車券としてのSuicaは、普及段階からデータ活用の段階へと変わりつつある。田浦氏は就任直後に「情報ビジネスチーム」を作り、個人情報保護に配慮しながらデータ分析を進める取り組みを本格化させた。1日2000万件以上の利用があるSuicaの利用履歴は、まさしく“ビッグデータ”である。「全部分析しようとするとコンピュータがいくらあっても足りない」(田浦氏)。まずは「訪日外国人専用Suicaだけを分析対象にする」など範囲を区切るなどして、分析手法を模索しているところだ。「将来的にはどの路線にどの車両をどの程度投入するかを判断するデータとしても、Suicaのデータを生かせるようにしたい」と意気込む。また最近力を入れていることとして、「私自身がこれまでに殆ど経験したことのない分野であるため、内外の情報に出来る限り多く触れることが何より重要と考えている。社外の方々はもちろん、当事業本部に所属する若手第一線社員からも多くの刺激を受けている」と語る。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・Suica事業は、当社の「経営の第3の柱」に位置づけられている。経営トップには、バッドニュースを含めありのままを伝え、率直に相談することを心がけている。
◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
・Suicaシステムは、毎日、何千万人ものお客さまの様々な経済活動を正確・高速に処理する世界に例を見ない社会の重要インフラだと認識している。一瞬のトラブルでも、甚大な影響を惹き起こす。それゆえ高度の「セキュリティ」と「安定性」が強く求められている。業界各位には、辛く苦しいが極めて誇り高いこの価値観を是非共有して頂きたい。
◆普段読んでいる新聞・雑誌
・日本経済新聞、朝日新聞、毎日新聞、週刊東洋経済、日経ビジネス
◆最近読んだ本
・『デフレの正体』(藻谷浩介著、角川書店) 『増補 転落の歴史に何を見るか』(斎藤健著、筑摩書房)
◆よく見るインターネットサイト
・特になし
◆ストレス解消法
・親しい仲間とベルギービールや日本酒を飲みながら語り合うこと(付き合ってくれる方がストレスが溜まっているかも・・・)