NHKオンデマンド(NOD)料金設定の自由化プランについて、総務省による意見募集と、2012年1月18日の電監審諮問を経て了解を得られた。放送法第20条第2項第2号について元々スタートから3年後に見直しが行われる予定になっていた。NHKの提出した変更案では、(1)サービスの種類、(2)プラットフォーム事業者からの契約の申し出への対応、(3)提供端末、(4)利用料金の考え方、(5)区分経理の5点の変更、(6)番組アーカイブ業務の事業計画の策定、(7)利用促進目的の料金の特定の2点の新設が盛り込まれた。サービスの種類では、現行の放送後1週間程度という提供期間を、3週間程度まで延ばすことも有り得るとしている。また、提供端末として、スマホなどを加えることが謳われており、それぞれ時代の趨勢に応えやすくしたとのイメージが強い。

 利用料金をどう決めていくかについて現状は、他の事業者と比べて著しく低くならないようにするために「中心料金」が定められている。また、パッケージ料金などの割引についても、最大30%を上限とする考え方が採られてきた。NHK提案では、この「中心料金」と「30%の上限」という部分の削除が求められた。ただし、利用料金収入が最大となること、他事業者の料金化水準より不当に低くならないこと、事業収支相償という「中心料金」を決める上でのベースとなっていた3要素は引き続き維持されることになっている。

 何と言っても、利用料金についての自由度を増すことの意義は大きい。3年前に決めた時には、各種のアンケートや利用調査を行い、1本当たりの単価を300円と設定した。実際に運用を開始し、他の事業者の動向を見て、もう少し実態を反映すべきではないかと考えられるに至った。単価やパッケージの仕方、その料金を自由に決められるようにするだけでなく、民放が展開している連続ドラマの1本目は無料にするといったキャンペーンもできるようにしたいという要望である。

 そもそもVODサービスおよび現状の市場規模を考えれば、民業圧迫といった概念は当たらず、NHKと民放の双方でマーケットメイクを行うべき段階にあると筆者は考えている。NHKの料金体系が硬直化したままでは、民放にとっても好影響を及ぼす状況になっていない。

 NHKについて言えば、本来の商行為としてのあるべき姿に従うようにする必要があった。ある種の根拠に基づいて決められた公定料金が存在してきたが、その根拠が本当に正しかったのかどうかも見直されるべきであるし、公定料金的な考え方から離れて、ケースバイケースの需要と供給を見ながら、自由に料金を決めて良いことにした。その代わり、2年間で単年度黒字にすることが求められるということである。

 NHKが受信料収入をベースとした公共放送であり、本来であれば、放送法に謳われているように「先導的な役割を担う」ことが求められているのであり、その対象は技術面に限定して捉えるべきではない。放送業界全般として新たなサービスに踏み込むべきかどうか、慎重に検討されているような際には、一定の規模感の範囲内でということはあるにしても、民間企業よりは踏み出しやすくしておく方が正しいだろう。特に新たなサービスの場合には、関連する著作権問題をどのように解決していくかという問題が必ず出てくる。それを1社や2社に任せていたのでは、実現が遅れるばかりである。

 また、こうした新サービスを提供する際には、放送局が直販することも間違いではないが、同時並行して、大手のネットワーク事業者と組んで展開していくことも重要である。ネットワーク事業者はARPUの向上策を常に模索しているものの、それにはコンテンツが肝要だ。コンサバティブなスタンスを取らざるを得ない放送事業者の置かれた環境を理解した上で、ネットワーク事業者がその事業規模の大きさを背景にして、マーケットメイクの先導役となるべきケースも多くなってきている。

 通放連携のサービスをいち早く提供し、ユーザーの利便性の向上を図ることが、放送と通信の両事業者にとって欠かせないはずである。そうした状況の中で、NHKの活動可能領域が硬直的なままでは、関連事業者だけでなく、ユーザーたる国民にとっても不幸なことにしかならない。サービス開始から3年が経ち当初の予定通りに見直し策が提案されることになったが、今後のことを考えれば、3年という月日も長すぎたかもしれないといった教訓も得たように思われるがどうであろうか。