今回の投稿は、スタートアップ企業の創業者4人とのやりとりから得られた教訓をまとめています。いずれのケースも、自社の製品を愛するがゆえの落とし穴。創業者が陥りがちな「独善」に基づいたものと言えそうです。(ITpro)

 この3日間で、将来性のあるスタートアップの創業者4人と、コーヒーを飲む機会がありました。

既存の市場の再分割

 4人とも、「既存の市場」を「再分割」しようとしていました。既存の市場とは、その市場を明確に識別でき、どの機能が大切かを指摘できる顧客に対して、利益を出している競合相手がいる市場です。再分割とは、既存の顧客層の一部かニッチな顧客層に対して安い価格の製品を提供するか、魅力的な機能を提供することにより、スタートアップ企業が、その市場に既に参入している企業から既存の客または見込み客を奪い取ることです。

 彼らとの会話は、以下のようなものでした。

スタートアップ企業1
創業者「私はX社と競合しています。そして、顧客開発のステップを踏みながら、多くの顧客と話をしました」
私「あなたはX社の製品を使いましたか?X社は製品を既に販売しているのですか?その会社が、どのようにして顧客の需要を創り出しているか知ってますか?どれだけ彼らの製品が売れているか知ってますか?その会社の典型的な顧客を知ってますか?」
創業者「いえ、知りません。しかし、私の製品の方がもっと優れており、私にはもっと良いアイデアがあります」

ルール1:
 既存の市場において「顧客開発」とは、見込み顧客を知るだけでなく、競合相手のことを詳しく知らねばなりません。具体的には、彼らの製品の機能、販売チャンネル、需要開拓戦略、ビジネスモデルなどです。

スタートアップ企業2
創業者「私はX社と競合してます。そして私たちは、コストの安いWeb版を提供します。来週には出荷予定です」
私「それはすばらしい仮説です。顧客は、あなたの製品の価格が安く、Webで使えるようになるとあなたの製品を買うと言ったのですか?」
創業者「はあ、いいえ。しかし私の製品の方がもっと安く、私にはもっと良いアイデアがあります…」

ルール2:
 既存の市場において「顧客開発」とは、顧客がどうしてあなたの製品を買うのかという仮説と現実との適合を理解することです。これは容易に検証できます(参考情報:エリック・ライズによる「継続的なソフトウエア開発」)。廃棄せざるを得なくなるかもしれないコードを書く前に実行してください。

スタートアップ企業3
創業者「私は大手X社と競合しています。私たちの製品は、一連の顧客の課題を解決します。私は多くの顧客と話しました。そして彼らは購入するでしょう」
私「それで、あなたが抱える問題は何ですか?」
創業者「私たちは、初期の顧客が製品にアクセスできるようにし始めましたが、顧客の採用と販売は私たちが予想したとおりには進みません。私たちの顧客の数は20に過ぎませんが、大手X社には何百万といます」
私「あなたは、自分たちの商品をどのように位置付けているですか?」
創業者「私たちは見込み客に、製品のすべての機能を説明しています」

ルール3:
 既存の市場では、既に市場に参入している企業の製品とあなたの製品を直接比較してください。特に、X社の製品には解決できないが、あなたの製品なら解決できる課題を説明することです。

スタートアップ企業4
創業者「私は、本当に、本当に新しいものを持っています。それと同じようなものは誰も持っていません」
私「それはTwitterのようなもので、さらに良いものなの?」
創業者「あなたは、分かっていませんね」

ルール4:
 あなたは新しい製品を「新しい市場」と位置付ける前に、じっくり考えた方が良いかもしれません。もし顧客がすぐにあなたの製品と同類の製品を思い浮かべたときには、その発想をさえぎってはいけません。「新しい10億ドル市場」といった位置付けは、投資家向けにはいいのですが、顧客にはピンときません。

学んだこと
―既存の市場を構成している企業のことを深く理解しましょう
―「書かれたコードに基づいて検証された仮説」の比率は、高くなければなりません。
―既に市場に参入している企業の弱点に対する、自社製品の位置付けを明確にしましょう。彼らの顧客が、その弱点が何かを教えてくれます
―既存の市場での採用比率は、マーケット・シェアのパーセンテージから分かります。新しい市場にも採用比率はありますが、それが分かるには会社の寿命ほどの時間がかかるかもしれません。

2009年8月20日投稿、翻訳:山本雄洋、木村寛子)

スティーブ・ブランク
スティーブ・ブランク  シリコンバレーで8社のハイテク関連のスタートアップ企業に従事し、現在はカリフォルニア大学バークレー校やスタンフォード大学などの大学および大学院でアントレプレナーシップを教える。ここ数年は、顧客開発モデルに基づいたブログをほぼ毎週1回のペースで更新、多くの起業家やベンチャーキャピタリストの拠り所になっている。
 著書に、スタートアップ企業を構築するための「The Four Steps to the Epiphany」(邦題「アントレプレナーの教科書新規事業を成功させる4つのステップ」、2009年5月、翔泳社発行)がある。