アニメーション作品『電脳コイル』(2007年放映、原作・脚本・監督 磯光雄)では、近未来の子ども向けのおもちゃとして作られた「電脳メガネ」という想像上のデバイスが描かれている。この「電脳メガネ」はこの現実世界に重なる仮想的な世界を同時に見せてくれる。作品中では電脳メガネをかけた人にだけ見える「電脳ペット」などが実用化されている。
この「電脳メガネ」のような、人の視界と一体化した情報デバイスの開発や活用に取り組む開発者達の一人が、携帯電話向けソフトウエア開発会社jig.jpの代表取締役社長、福野泰介氏だ(写真1、2)。
福野氏は今、一人のプログラマとしてあるデバイスに向かい合っている。エプソンのAndroid搭載の眼鏡型ディスプレイ「MOVERIO」だ(写真3、表1)。このデバイスの上ではAndroidアプリが動き、しかも透過型のディスプレイにより現実の視界とアプリの表示画面を重ねて表示できる。現時点では他に例を見ないユニークなデバイスといえる。
製品名(型番) | MOVERIO (BT-100) |
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液晶パネル | 0.52型高温ポリシリコンTFTワイドパネル(16:9) |
表示解像度 | 960×540(QHD) |
3D表示機能 | サイドバイサイドのコンテンツを3D表示できる |
画角 | 約23度 (5m前方の80型/20m前方の320型ディスプレイに相当) |
OS | Android2.2 (Flash Player10.3を搭載) |
対応する動画/音声フォーマット | MPEG4、H.264、AAC、MP3 |
バッテリー持続時間 | 6時間(動画ファイル連続再生時、公称値) |
ヘッドセット外形寸法 | 205×178×47mm、240g(ケーブル含まず) |
コントローラー外形寸法 | 67×107×19mm、165g |
発売日 | 2012/11/25 |
福野氏は最近、MOVERIO向けAndroidアプリの配布や、使い方の情報などを公開するサイト「moverio-fan」を立ち上げた。MOVERIOは、多くのAndroidアプリ開発者から見れば異端のデバイスに見えるかもしれない。形態が特殊で、カメラやGPSなどの機能を備えておらず、Android Marketを搭載していないからだ。だが福野氏はこのMOVERIOを来るべき未来のデバイスの第一号機と捉え、アプリの開発に乗り出したのだ。
氏は社長という立場から各種イベントに参加する機会が多いが、そのさいMOVERIOを装着するようにしている。その姿はとにかく目立つ。声をかけられることも多い。「人気者になれます」と福野氏は笑う。「何が見えますか?」と聞くと「未来が見えます」と答えてくれた。
福野氏のFacebookページでは、MOVERIOを装着した人々の写真が多数掲載されている。いわば草の根の活動として、「眼鏡型情報デバイスはすでに存在している」というメッセージを発信し続けているのだ。
「今年(2012年)は“電脳めがね元年”にしたい」と福野氏は話す。実際に、MOVERIO以外にも「眼鏡型ディスプレイとモバイルコンピューティングの組み合わせ」の試みは年内にはさらに広がりそうなのだ。AR(拡張現実)向けデバイスで実績がある米Vuzix社は、フィンランドNokiaが開発した"SMART Glasses"技術を投入した薄型のシースルー型ディスプレイを2012年秋に製品化予定だ(発表資料)。「米Googleが眼鏡型のデバイスを開発中か」とのリーク情報も出回っている(関連記事:Googleが「Androidアイウェア」を開発中?)。