国内ビール大手4社が、競い合うように情報システムの全面刷新にまい進している。グローバル展開およびグループ経営強化という経営目標の達成を後押しするため、各社の情報システム部門は、「クラウド導入によるシステム基盤の刷新」など三つの情報システム改革を急ぐ。ビール各社は、今回の改革を、グローバルな総合飲料・食品会社へと生まれ変わるための絶対条件と位置付ける。彼らを突き動かすのは、低迷が続く国内市場への危機感だ。その取り組み内容は、グローバル展開を目指す他業種の情報システム部門にとっても改革のヒントとなる。

国内ビール
いま、国内ビール大手4社が競うように、情報システムの全面刷新にまい進している
(写真:中西昭)

 「情報システムの抜本的な改革を断行して、真のグローバル企業へと生まれ変わる」――。アサヒビールなどを傘下に抱えるアサヒグループホールディングスの本山和夫副社長は、こう宣言する。

 アサヒをはじめ、キリンホールディングス、サントリーホールディングス、サッポロホールディングスのビール大手4社が、グループ全体を横断した情報システムの改革に取り組んでいる。改革とは、(1)プライベートクラウドの導入によるシステム基盤の刷新、(2)グループ全体での業務アプリケーションの整理・統合、(3)IT投資の世界規模での最適化に向けた管理体制の整備――の三つである。

低迷続く国内市場、成長の可能性を海外に

 システム改革の狙いも4社に共通だ。継続的な「コスト削減」、アプリケーションの機能追加や修整についての「スピード向上」、IT投資管理などの「ガバナンス強化」である(図1)。

図1●ビール大手4社のシステム改革の取り組み
図1●ビール大手4社のシステム改革の取り組み
グローバルな総合飲料・食品企業へと変わるため、各社の情報システム部門は、ITコスト削減、開発スピード向上、ITガバナンス強化を加速させている。

 4社は、システム改革のこれら三つの取り組みを、すべてのグループ企業を対象に、しかもグローバル規模で実践しようとしている。各社ともこれら三つの取り組みを、グローバルな総合飲料・食品企業へと生まれ変わるための絶対条件と位置付ける。

 ビール大手各社が事業のグローバル化を急ぐ理由は、国内市場が低迷していることにある。ビール、発泡酒、第三のビールを合わせた国内の出荷数量は2004年から漸減を続ける。2011年上半期の出荷量は、前年同期比3.5%減の2億32万3000ケースと、過去最低を更新した。

 こうしたなかで新たな成長を遂げるために、ビール4社は海外に成長の可能性を求める。4社の情報システム部門の取り組みは、グローバル展開を目指す他業種の情報システム部門にとっても改革のヒントとなる。システム基盤の刷新、アプリケーション統合、IT投資管理という取り組みに沿って、各社の具体策を見ていく。