電力や交通などを制御する社会インフラ事業にも、企業システムを立案・構築するIT(情報技術)事業にも強みを持つ日立製作所。前者なら米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンス、後者なら米IBMなども強みを持つが、両者を兼ね備える企業は世界的に珍しい。今回は、巨大な世界の社会インフラ市場の争奪戦に、制御技術とITの「融合力」で挑む日立の課題を検証する。

 日立が制御技術とITの融合を深め、国内はもちろん、海外でも「社会イノベーション事業」を本格展開するには、越えなければならないハードルがいくつかある。ここでいう社会イノベーション事業とは、日立が成長のキーワードとして掲げる新たな事業領域のこと。社会インフラを支え、モノを動かす制御技術と、データをやり取りする情報技術を融合させることで、新たなビジネスを生み出そうという概念である。

電力システム社に付いていくだけではだめ

 最大の課題は、ITを担う情報・通信システム社のグローバル化だ。日立全体の海外売上高比率は2011年3月期に43%だったのに対し、情報・通信システム社のそれは24%。国内依存度の高さも影響し、情報・通信システム社の売上高は2期連続で減っている。

 情報通信部門の幹部は「現時点では情報・通信システム社が主導して、海外で社会イノベーション事業を進めるような陣容にはなっていない」と認める。海外でスマートシティなどの案件があっても、ビジネスを主導するのは電力システム社などで、IT部隊は後から付いていく存在にとどまっているという。

 日立としては、このギャップを埋める必要がある。仮に将来、海外で社会インフラ構築案件を受注したとしても、ITの部隊が国内にとどまっていては、設備を納入するだけでビジネスが終わってしまう可能性があるからだ。そうなると、海外では「制御とITの融合」はかけ声倒れになってしまう。そこで情報・通信システム社も、グローバル化に本腰を入れる。

 掲げるハードルは高い。2011年3月期に1兆6520億円だった情報・通信システム社の売上高を5年後の2016年3月期には2兆3000億円に伸ばし、そのうち35%を海外で稼ぐ計画だ(図1)。達成するには、今後5年間で海外売上高を4000億円近く増やす必要がある。

図1●日立の情報・通信システム部門の業績推移
図1●日立の情報・通信システム部門の業績推移