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WBS(Work Breakdown Structure)のメリットは、これまで解説してきたプロジェクトマネジメントの分野にとどまりません。ITエンジニアのスキルアップにつながるメリットもあります。具体的には「分解して管理する習慣が身に付く」と「先を見る習慣が身に付く」というものです。これからプロジェクトマネジャーやリーダーを目指すエンジニアにとって特に大きなメリットとなるでしょう。
分解して管理する習慣が身に付く
最初の「分解して管理する習慣が身に付く」とは、プロジェクトマネジメントの世界でよく出てくる、古代ローマ帝国の統治方法「分割して統治せよ(Divide and Conquer)」のことです。大規模なプロジェクトやよく定義されていないプロジェクトは、いくつかの小さなグループに分割すると、問題が小さなグループの中に閉じ込められ、解決(統治)しやすくなります。そして複数の小グループを統治することによって、最終的にプロジェクト全体を統治できます(図6)。
ちなみにWBSでは「ワークパッケージ」と呼ばれる単位にまで作業を分割します。つまり、WBSの小グループとは、このワークパッケージを指します。マネジメント上の問題、例えば納期やコストといったトレードオフの関係にある項目間の調整は、ワークパッケージの単位で解決し、プロジェクト全体に影響が及ぶのを防ぐのです。
プロジェクトに限らず、大きな仕事や自分が経験したことがない仕事を与えられたら、WBSを使って、できるだけ問題を局所化し、対応方法を考える習慣を身に付けることが大切です。
先を見る習慣が身に付く
もう一つは「先を見る習慣が身に付く」です。これは、筆者らが最も重要だと感じているメリットです。
プロジェクトを遂行する上で、極めて大切なリソースは「時間」です。お金は使わなければ残るし、いざとなればほかから調達することもできます。しかし、時間はそうはいきません。過ぎ去った時間を取り返すことはできないのです。だからこそ、時間を無駄にしないために、プロジェクトの「先を読む」という習慣がエンジニアには求められます。
WBSは、ゴールまでの道筋を考えながら作成します。既に実施した作業を洗い出すのではなく、将来実施する作業を洗い出すわけです。WBSの作成を経験すると、自然と先を読むという習慣が身に付くはずです。実際に洗い出していると「思っていたより大変!」「なんだ、これとこれをやればいいのか」という意識を持ちながら仕事を進めていくようになります。
先を見る習慣は、何もプロジェクトの中だけで有効なわけではありません。普段のどんな仕事でも、先を見て時間をうまく使えると、作業の効率が高まります。今回取り上げた四つ目と五つ目のメリットは、将来プロジェクトを任されたとき、きっと役に立つことでしょう。