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 WBS(Work Berakdown Structure)がプロジェクトにかかわるみんなのものであることを前回説明しました。今回からは、WBSを作成すると、具体的にどんなメリットがあるのかを、もう少し詳しく見ていきたいと思います。

 もしかすると、WBSを作成した経験がある読者の中には“WBS嫌い”の人がいるかもしれません。はっきりいって、WBSを作るのは面倒です。それでもWBSを作成すると、多くのメリットがあります。むしろ作成しないことのデメリットの方が多いことに気付くでしょう。ここでは、筆者らが特に大きいと考える五つのメリットについて取り上げます(図3)。

図3●WBSの五つのメリット
図3●WBSの五つのメリット

作業の抜け・漏れや重複を防げる

 最初に挙げるのは、作業の抜け・漏れや重複を防げるメリットです。WBSでは、トップダウンで論理的に作業や成果物を分解していきます。このため、作業の抜けや漏れ、重複を防ぐことができます。

 これは、分解するという思考過程そのものが“気付き”を促す効果があるからです。例えば、作業1と作業3を洗い出したとき、作業3を始めるには事前に資料集めという作業2をしなければいけないことに気付くことができます(図4)。また、作業1と作業3は実はよく見ると同じような作業であり、どちらか一つをやらなくて済むことを発見できるかもしれません。

図4●作業の抜け・漏れや重複を防げる
図4●作業の抜け・漏れや重複を防げる

 このようにWBSを作成していく過程では、作業計画を洗練させていくことが可能です。その結果、もっと早く手を付けないと間に合わない、あるいはもっと人が必要だ、といった判断を事前にすることができます。

プロジェクトのスコープが決まる

 二つ目のメリットは、WBSを作るとプロジェクトのスコープ(範囲)が決まることです。プロジェクトマネジメントの世界では、WBSを「スコープマネジメント」という領域で扱っています。この中で、WBSで洗い出した作業の範囲は、「プロジェクトスコープのベースライン」として定義します。

 ベースラインという言葉が出てきましたが、これはステークホルダー(利害関係者)の間で合意した基準のことを指します。実際のプロジェクトでは、計画段階で作成したプロジェクト計画書の中で、プロジェクトスコープのベースラインを定義します。ここで定義したWBSの作業は「スコープ内」、書かれていない作業は「スコープ外」としてはっきりするわけです。

 もしスコープが不明確な状態でプロジェクトがスタートしたら大変なことが起こります。例えばスケジュールが遅延したときや、要員が増えたときに、ユーザー側と開発側で追加費用を巡ってトラブルになる可能性があります。仮にWBSに書かれたプロジェクトスコープ外の作業によってスケジュール遅延やメンバーの増員が発生したのであれば、これは追加費用が発生することを意味します。逆に、プロジェクトスコープ内の作業に対応するためのスケジュール遅延や増員であれば、原則として追加費用は認められません。

 次回は、三つ目のメリットであるプロジェクトの計画が明確になる、という点について解説します。


初田 賢司(はつだ けんじ)
1980年、日立製作所入社。製造業のSEを経てソフトウエア生産技術の開発に従事。現在はPMO(Project Management Office)に所属し、プロジェクトマネジメント分野のエンジニアリング化に取り組む。日本ファンクションポイントユーザ会会長。著書に「本当に使える見積もり技術」(日経BP社)がある
神子 秀雄(かみこ ひでお)
1968年、日立製作所入社。信託銀行向け基幹システムのサポートSEを経て、地方銀行向け資金・証券パッケージの開発などに従事。現在はPMOに所属し、プロジェクトマネジメント技術の開発、プロジェクトの支援・指導に取り組む