クラウドサービスのユーザー企業に向けた損害保険が登場した。クラウド事業者に預けたデータやプログラムを災害などで消失した場合に、ユーザー企業に保険金が支払われる。直接的な損害だけでなく、事故がなければ負担する必要のなかった費用や、事故によって失った利益まで補償する。

 クラウドの損害保険は、三井住友海上火災保険が2月1日に販売を始めた「クラウドプロテクター」。「東日本大震災以降、クラウドに注目が集まっているが、天災によるデータ消失の責任を負い切れないとする声が、ベンダーから出ている。ユーザー企業側も、データを消失した場合を気にして利用に二の足を踏むケースが少なくない。保険商品のニーズは高いと判断した」と火災新種保険部 企業財産保険チームの井上靖夫課長代理は説明する。

 クラウドプロテクターは、クラウド事業者の設備で保管するデータを補償の対象とする。クラウド事業者は事前に、データセンターの設置場所や耐震性、過去の障害履歴、突発的な事故へ対応する体制など二十数項目を自己申告。三井住友海上は申告内容に基づき保険料を決める()。支払限度額5000万円の契約の場合、ユーザー企業が支払う月額保険料は標準で5万180円となる。

図●三井住友海上火災保険が販売を開始した「クラウドプロテクター」の概要
図●三井住友海上火災保険が販売を開始した「クラウドプロテクター」の概要
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 対象となる事故は、火災や地震、津波、ウイルス、サイバー攻撃、内部不正や機器の盗難などだ。保険金はバックアップからのデータ復旧に要する費用、クラウドサービスで実施していた事業の継続に必要な追加資金、喪失した利益を加味して算出する。

 ユーザー企業にとって注意が必要なのは、日本国内にデータセンターを持つクラウド事業者のみを対象にしていることだ。具体的な事業者名は非公表だが、「ある程度の保険契約数を集めることができるベンダーを想定している」(井上課長代理)ことから、事実上、国内の大手クラウド事業者が対象となる見込みだ。ユーザー企業が自社のデータセンターで構築・運用する、プライベートクラウドは対象外となる。

 三井住友海上は、初年度で3億円の保険料収入を見込む。ユーザー企業の業種は問わないが、「通信販売業など、大量のデータを扱う企業のニーズが大きいとみている」と井上課長代理は話す。NKSJホールディングス傘下の損害保険ジャパンと日本興亜損害保険の両社も、三井住友海上と同様の保険の提供を検討中とする。今後、クラウドユーザー向け損害保険商品が増えそうだ。