「投資家や取引参加者にご迷惑をかけ、お詫びする」。東京証券取引所の鈴木義伯専務取締役CIO(最高情報責任者)は、2月2日に起こしたシステム障害の記者会見でこう陳謝した。

 障害が発生したのは株式売買システム「arrowhead」のうち、相場情報を送信する「情報配信システム」だ。全銘柄の約1割に当たる241銘柄について情報が配信できず、2月2日午前中の該当銘柄の取引を停止する事態に陥った。

 障害の原因は三重化したサーバーの切り替えミスだ。情報配信システムはサーバー3台を1セットとし、8セットからなる()。通常時、各サーバーは特定の銘柄を担当し、株価情報などを配信する。仮に1台に障害が発生した場合、他の2台に自動的に切り替えて処理を継続する仕組みを持つ。この仕組みが機能しなかった。

図●東京証券取引所で2月2日に発生したシステム障害の経緯
図●東京証券取引所で2月2日に発生したシステム障害の経緯
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 2月8日時点で東証は「原因は調査中」としているが、初動対応について三つの疑問が残る。

 システム障害の発端は、午前1時27分に発生した1台のサーバーのハードウエア故障だった。最初の疑問は、1台の故障がなぜ、1セット全体のトラブルにまで拡大したかという点だ。サーバー群が共倒れにならないように、東証は三重化していたはずだ。

 次の疑問は、切り替え完了を確認するプロセスにある。午前2時半ごろに東証のシステム担当者は、診断ツールを使って自動切り替えの完了を確認したという。だが、実際には切り替えは失敗しており、東証は約5時間後の午前7時40分まで「切り替えが成功している」と誤認していた。もっと早く気付くことはできなかったのか。

 最後は切り替え失敗の判明から、手動での強制切り替え開始までに1時間を要している点だ。

 これら三つの疑問からは、東証の危機対策の不備が見え隠れする。証券業界のシステムに詳しい、東京情報大学元教授の玉置彰宏氏は次のように指摘する。「東証はシステム開発の陣容は強化してきたが、運用面にまで手が回っていないのではないか」。障害の再発を防ぐためにも、原因の究明と徹底した情報公開が望まれる。