米国特許の件数でいえば、Samsung社とApple社には圧倒的な差がある。パテント・リザルトの集計によれば、1980年~2011年9月の間に公開された特許公報は、Apple社が7610件なのに対し、Samsung社は8万3254件と、10倍以上の開きがある。

特許ポートフォリオに違い

 もともとの事業形態の違いもあるが、両社には「技術シーズをなるべく権利化しておこうと考えるか、自分たちのビジネスの根幹の部分を集中的に権利化しておこうと考えるかの違いがある」(知的財産権に詳しい弁護士)。Apple社とSamsung社が保有する米国特許を分析し、強い技術分野を見ると、そうした違いがくっきりと見えてくる。

 Apple社の特許は、タッチ・パネル分野(USPCの345/173)だけが群を抜いて強い。総合力、特許の強さ、そして件数のすべてで突出している。その他の分野は、件数が少なく、総合力もあまり高くない。一部、コンピュータの電力制御分野(USPCの713/300)に非常に強力な特許を持っているのが目立つ程度だ。

 一方のSamsung社は、各分野における特許の件数の多さが目を引く。総合力では有機蛍光体分野(USPCの313/504)が高く、ディスプレイを制御する駆動回路の分野(USPCの345/204、およびそのサブクラスの345/690や345/211)に非常に強い特許を持っている。

 Apple社は、他社に比べて特許が少ないという不利を、自らの先鋭的な部分を磨くことでカバーしようと考えた形跡がある。同社のタッチ・パネル分野の特許とデザイン特許を出願年で調べると、iPhoneを投入した2007年に集中していることが分かる()。「iPhoneの投入に相当力が入っていたことの表れだ。自分たちが創ろうとした市場をどのように守るかを考えた結果、自らの強みとなる部分の知的財産権を集中的に取得したのだろう」(米国の知的財産権事情に詳しい弁護士)。

図●iPhoneの投入に合わせて特許やデザイン特許を増やしていた
図●iPhoneの投入に合わせて特許やデザイン特許を増やしていた
Apple社が米国で持つタッチ・パネル関連特許とデザイン特許の件数を、出願年別に示した。初代iPhoneを投入した2007年に出願したものが多い。タッチ・パネル関連特許(筆頭技術分野が345/173のもの)の件数はパテント・リザルト調べ、デザイン特許の件数は本誌調べ。
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 Apple社は、カナダNortel Networks社の特許群の取得に26億米ドルという莫大な金額を投じるなど、既存の特許の買収にも動いている(末尾の囲み記事「スマートフォン関連特許の買収金額が暴騰」参照)。強い分野の特許を集中的に取得することと、特許の件数を増やすことの両輪が必要だとApple社は考えているようだ。

特許の数に頼れなくなる

 ある国内機器メーカーの知的財産権担当者は、こう語る。「スマートフォンやタブレット端末は、構成要素の大半が標準的な部品だ。これまでエレクトロニクス・メーカーが重点的に取得してきた特許は、そうした部品が担う機能や通信の標準規格などに関するものが多い。Apple社は、その共通部分の上に乗るソフトウエアやデザインに関する知的財産権を重点的に強化している。そうしたApple社の姿勢に見習うべきことは多い」(ある機器メーカーの知的財産権担当者)。