スマートフォンやタブレット端末における知的財産権の侵害で、米Apple社と韓国Samsung Electronics社が激しい訴訟合戦を繰り広げている。始まりは2011年4月だった。Apple社が米国カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に、Samsung社がスマートフォン「Galaxy S」やタブレット端末「Galaxy Tab」などでApple社の知的財産権を侵害したとして提訴したのだ。

 訴状には、Samsung社に対する痛烈な批判が並ぶ。例えば「SamsungのGalaxy製品群における、Appleの知的財産権の目に余る(flagrant)容赦のない(relentless)コピーは、Appleの投資からSamsungが利益を得るのを許すことになる。その上、Appleのトレード・ドレスやアイコン商標の強さを希薄化し、Appleがこれまでの製品で培ってきたブランド価値を貶める恐れがある」─といった具合だ注)。侵害をやめるよう働きかけたが受け入れられないため、訴訟に踏み切るしかなかったとApple社は説明している。

世界各国に飛び火

 この提訴に端を発した一連の訴訟は、欧州各国や韓国、日本、オーストラリアなど世界中に飛び火した()。各国で、Apple社とSamsung社が互いの知的財産権の侵害を訴え合っている。

図●2011年4月から世界各国で訴訟合戦を繰り広げる
図●2011年4月から世界各国で訴訟合戦を繰り広げる
Apple社が米国でSamsung社による知的財産権侵害を訴えたことに端を発する両社の争いは、あっという間に世界中に広がった。Apple社の主張を認める国もSamsung社の主張を認める国もある。
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 序盤は、Apple社に有利な判決が相次いだ。例えばドイツでは、地裁が2011年9月に「Galaxy Tab 10.1」がApple社の「iPad」のデザインに酷似しているとして販売差し止めを命じた。Samsung社はデザインを一部変更した「Galaxy Tab 10.1N」を投入する必要に迫られた。オランダでも同年8月にGalaxy SなどがApple社の特許を侵害しているとの判断が下り、Samsung社は販売差し止めに追い込まれた。

 ここへきてSamsung社側に有利な判決も出つつある。米国では2011年11月に、カリフォルニア州北部地裁がApple社の販売差し止め請求を却下した。オーストラリアでは、同年10月に地裁がGalaxy Tabの販売差し止めの仮処分を決めたものの、11月の控訴審で連邦裁判所が「販売を差し止めるまでの理由はない」と仮処分を撤回した。翌12月に最高裁がApple社の訴えを退けたことで、オーストラリアでは判決が確定した。

 すべての訴訟の判決が確定するまでには、長い時間を要するだろう。途中でApple社とSamsung社が和解に至る可能性もあるが、決着への道筋は見えていない。「これだけの数の訴訟を各国で同時に進める例は珍しい。膨大な費用をかけてまで争うのは、スマートフォンとタブレット端末の市場を両社が非常に重視していることの表れだ」(米国での知的財産権事情に詳しい弁護士)。