本連載では富士通グループと大和ハウス工業の基幹系システム構築プロジェクト事例を通して、CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)をシステム構築の期間短縮に役立てるノウハウを解説している。第1回ではCCPM適用の効果と主な特徴を解説し、前回は現場のマネジメント手法を詳細に紹介した。最終回の今回は、CCPMをスムーズに適用するために、プロジェクトのオーナーなどマネジメント層が押さえておくべき点を総括する。

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 これまでCCPMのユニークな工期の計画方法や、現場マネジメントの工夫を紹介してきた。ほかにも、成功要因と目される要素が今回のプロジェクトにはある。(1)新たなマネジメントルールを浸透させるまで現場に粘り強く説明を重ねる、(2)プロジェクトオーナーやマネジメント層がCCPMという新手法に本気で取り組みマネジメントを変える、(3)達成目標が明確で、事前に資源(人数)確保の見通しがある程度ついているなど、PMBOKでも要求されるような基本的な成功条件が備わっている――などだ。

現場が「腹落ち」するまで説明・指導を重ねた

 今回のプロジェクトは、富士通側だけで2000人月の規模。大和ハウス工業本社内のプロジェクトルームでは常に両社合計で100人規模のメンバーが働いている。これだけの人数に、CCPMの考え方をどうやって浸透させたのか。

 「コーチングさながらに、丁寧に現場を回って説明した」。CCPMの考え方を浸透させた方法を、富士通側のプロジェクトリーダー(実質的にはプロジェクトマネジャー)である中江功 富士通関西システムズ ビジネスソリューション本部SAPソリューション部担当部長はこう話す。

 具体的にはまず設計フェーズにおける試行導入の前に、CCPMに関する集合研修を実施した。CCPMの基本的な枠組みや、「悪いマルチタスク」などCCPMで重要視される考え方を主要メンバーに解説した。

 もちろんそれだけでは現場の理解は十分なレベルまで達しない。中江氏らマネジメント層は当初、現場のまとめ役であるチームリーダやタスクマネージャなどが集まる会議にもなるべく参加し、コーチング風の指導を心がけたという。例えば「いつまでにできるんだ」などと“従来型”の進め方をしようとするマネジャーがいたら、「会議が終わったあとに、そっとそばに行って『こういう風にするといい』とやり方をアドバイスした」(中江氏)。

 「私自身、CCPMの考え方が『腹落ち』するまでに相応の時間がかかった」と語る中江氏は、こうした指導に手間暇を惜しんだら定着は難しいと肝に銘じていた。「全員が全員、そう簡単にCCPMの考え方を理解して実践できるものではない。そういう前提で、とにかく地道に浸透させるつもりで説明に回った」(中江氏)。

顧客企業が適用に本気だった

 このようにベンダー側である富士通グループのマネジメント層が粘り強く取り組めた背景として、プロジェクトのオーナーである大和ハウス工業がCCPMの導入を堅く決意していたことも見逃せない。

 第1回で触れたように、今回のプロジェクトでCCPM適用のきっかけを作ったのは、顧客企業である大和ハウス工業側だ。2010年8月には、CIO(最高情報責任者)の石橋民生代表取締役副社長が音頭をとって、プロジェクトの中核メンバーがTOC(制約条件の理論)およびCCPMのコンサルティング会社である米リアライゼーションに、CCPMの研修を受けるため米国カリフォルニア州に飛んだ。

 社運をかけたプロジェクトの途中で、夏休みを潰す形でマネジメント層がごっそり2週間も研修のため席を空けたのだから、その本気度は周囲にも伝わる。またCIOの石橋氏は、創業者である故・石橋信夫氏から始まる一家の出身である。創業家出身のCIOによる旗振りということで、特に大和ハウス工業側の士気が高まり、「なんとしてでも成功させる」という不退転の決意が固まったであろうことは想像に難くない。