これまで、企業がソーシャルメディアを自分たちのビジネス戦略に利活用するにあたって、特に意識して考えるべきことを述べてきた。実は、これらは大きく三つのテーマに分けることができる。

 まず、ポリシーやガイドラインなどに代表される「コンプライアンス的な面」。そして実際に戦略を組み、実行に移す段階における組織や「体制的な面」。もう一つが“傾聴”という言葉で語られるような、ソーシャルメディア上の声を把握し、活用する方法や、前回まで述べていたBtoBビジネスにおけるソーシャルメディア利活用といった「戦術的な面」である。さて今回からしばらく、これらに続く「第四のテーマ」について考えてみよう。それは「戦略的な面」だ。

 これはソーシャルメディアを、どのように利活用していくか、というような直接的な話ではなく、むしろ「ソーシャルメディアを、どのように企業の戦略に組み込むか」という、これまでとはやや異なったレイヤーの話になってくる。

期待したほどの効果を実感できずにやめるところも

 ソーシャルメディアを企業のビジネスに利活用する動きが出てきてから、これまでに語られてきた方法論は、主に「ソーシャルメディアをどのように使うか」といったものがほとんどだった。つまり、ブログ、Twitter、Facebookといった、ツールやプラットフォームを問わず、「どのように窓口を開設あるいは構築し、それを運営するか」ということのみにフォーカスされていた。

 ただ、そういった形で企業がソーシャルメディアを利活用してきたものの、そこからもたらされている効果は、ともすれば限定的なものとなりがちであることがよくある。こうしたケースは珍しくなく、施策に対する効果が限定的なものであったがゆえに、最終的にソーシャルメディアへのアプローチそのものを行わなくなった(あるいは休止した)企業も少なくない。

 その一方で、ソーシャルメディアを利用するユーザー数、新しいツールやプラットフォーム、そしてサービスなどが続々と増加している状況からもわかるとおり、ソーシャルメディアの世界には、何らかのチャンスが見いだせる。現状では、ソーシャルメディアの可能性は大きくなりこそすれ、決して小さくなることはない。これは、おそらくは企業としてソーシャルメディアの使い方を変えるか、それ以前にソーシャルメディアの位置付けそのものを変える形でアプローチしていかなくてはならない段階に差し掛かっていることを意味しているのだろう。

戦略や施策の一つとして組み込んでいく意識変革が必要

 少なくともソーシャルメディアを単体のツールとして、そしてそれを利活用する施策を単独のものとして考えるよりも、企業のビジネス戦略そのものに(仮にそれが目立たないような位置付けであったとしても)きちんと組み込んだ形で考える必要がある時代になってきたと考えた方がよい。つまり「ソーシャルメディアを使って何かをやろう」と考えるのではなく「何かをするにあたって、ソーシャルメディアはどう使えるだろう」と考える意識の変革が求められるのだ。

 たとえば広告、あるいは販促などのキャンペーンをする場合であれば「ソーシャルメディアを使ってキャンペーン活動をする」ということではなく、「その販促活動においてコミュニケーションを行うにあたり、新聞・テレビ・雑誌などのメディアに“加えて”ソーシャルメディア(それ以前にデジタルを用いたアプローチ)を、どのように組み込んでキャンペーンするか」と考えなくてはならない。

 そのためには、デジタル領域の専門部門(あるいは担当)が単独でプランニングをするのではなく、そもそもの戦略・施策の全体設計の段階において、デジタル領域の専門部門や担当者が中核の一部として参画するということが求められてくる。その上で、オフラインにおけるコミュニケーション活動、あるいは店舗など、リアルな場における活動との連携を密に考える必要があるのだ。そしてもちろん、こういった戦略を策定していくにあたって、仮にソーシャルメディアを含む、デジタルを用いたアプローチが得策ではないと考えられる場合は、“潔く”そういったアプローチを用いないという判断まで必要となることになる。

 このように「ソーシャルメディアを使うことを前提に戦略を立てる」ということではなく、「ソーシャルメディアを含む、デジタルを用いたアプローチを、どのように戦略・施策に組み込んでいくか」という発想で、結果的にソーシャルメディアを的確に利活用していくために強く意識した方が良いと思われる点を、次回以降、より詳しく掘り下げていきながら考えてみたい。

熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)
リーバイ・ストラウス ジャパン デジタルマーケティングマネージャー
熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)1974年生まれ。プロミュージシャンからエンジニア、プロダクトマネージャー、オンライン媒体編集長などを経て、マイクロソフトに入社。企業サイト運営とソーシャルメディアマーケティング戦略をリードする。その後PR代理店バーソン・マーステラでリードデジタルストラテジストを務め、2011年12月よりリーバイ・ストラウス ジャパンにてデジタルマーケティングマネージャーとなる。