今回は、中国の上海と深センにおける企業のタイプの違いを、本格的に盛り上がりそうなIPTV(インターネットTV)をキーワードに紹介します。IPTV用セットトップボックス(STB)の「Google TV」やドラマのビデオオンデマンド(VOD)定額配信で進撃中の「Hulu」などが最近話題ですね。

写真1●ドラゴンテック社のIPTV製品
写真1●ドラゴンテック社のIPTV製品
日本のNHKデジタルを試しに映しているところ。
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 まずは、上海にあるドラゴンテック社。1999年操業開始の“老舗”STB開発会社です。老舗らしく、日本のデジタルテレビ向けの「ISDB」仕様をほぼ完璧に実装しています(写真1)。米国の「ATSC」や欧州の「DVB」などのデジタルテレビの規格も実装済みとのこと。現在は、ブラジルへの出荷に向け、ブラジルの仕様である「SBTVD-T」を実装中です。

 もちろんAndroidベースで、アプリケーションの動作も可能。戦略としては、既存アナログTVのデジタル化の波に乗って自社製品を広め、IPTV化で次世代TVにも対応していくという、まさに老舗ならではの王道アプローチといえます。現在は、BRICs当たりの新興国の市場を虎視眈々と狙っています。

 続いて深センの企業です。深センは、米Apple社のiPhoneをはじめ各メーカーの製造を請け負っているFOXCONN社の工場がある地域で、工場地域と思われがちです。しかし実際は、中国国内的にベンチャー企業の産まれる地域であり、米国の西海岸に近い位置付けとなります。香港も近く、ベンチャーキャピタルとの連携が取りやすいのが理由の1つです。ここでは、3~5年で勝敗が決まり、ビッグになった企業で中国国内での活動をメインとする場合は北京へ、国際展開を見通す場合は上海へと、巣立っていきます。

写真2●TVにSTBが組み込まれた形のTOGIC社の製品
写真2●TVにSTBが組み込まれた形のTOGIC社の製品
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 生粋のベンチャーという感じで、実質的にIPTV1本に絞っている深センの企業の1つがTOGIC社。昨年操業したばかりで、日本メーカーでの勤務経験がある陳氏が指揮を執っています。“日本品質のAndroid”を前面に押し出したIPTV製品群を作っています(写真2)。

 TOGICは、海外向けでは、パートナーと組み、OEM供給に徹する戦略です。例えば、インドでVODをホテルに配信するビジネスをしている会社と組み、その受信機としてSTBを使ってもらっています。

 中国国内向けでは、独自ブランドの確立を目指し、家電量販店などに売り込んでいます。「中国国内とはいえ、TV系で今更ブランド化?」と思われるかもしれませんが、実は中国ではこれが成り立ったりするのです。

 そのキーワードは「大人数」。要はパイがでかいため、日本や米国などでは4社くらいしか生き残れない市場でも数倍のメーカーが生き残れるのです。市場が広がっている現在、その広がった市場に新たなメーカーとして君臨できる可能性があるわけです。

 IPTV市場は老舗もベンチャーも、TV側からのアプローチとPC側からのアプローチの2系統になっています。前者は、パナソニックやソニーが挑戦し、後者は米Microsoft社やApple社が挑戦し、両者共に敗北してきたともいえる経緯があります。しかし今、Androidアプリケーションフレームワークによるゲーム配信やHuluをはじめとしたVODで、やっとユーザーが欲しがるコンテンツがそろい、ついに普及しそうな状況です。どちらのアプローチが席巻するのか、うまく棲み分けがされるのか、要注目です!

レポーター:今村のりつな
SIProp.org 代表/OESF CTO
PC系から新時代に移行するための“エコシステム”を台湾の政府系研究機関で開発中。Linux/ARMやOSSを追いかけて様々な国へ飛んでいく風来坊。