滞在地のロンドンで暴動が現在進行形で起きています。救急車やパトカーが行き交い街中は阿鼻叫喚…というわけでもなく、観光地は平常運転。有名なウェストミンスター宮殿やバッキンガムパレスにも行きましたが、何事もなく機能していました。

 今回は、イギリスとコロンビアからです。タイトルの『アジア』はどうしたの? それはさておき、両国から「2つの新しい力」を紹介しましょう!

写真1●Campus Partyの風景
写真1●Campus Partyの風景
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 まずは、コロンビア。「Campus Party」というスペイン語圏最大のオープンソースソフト(OSS)系イベントに参加してきました。雰囲気は、欧米のOSSイベントに近く、参加者がPCを持ち込んでオンラインゲームに興じる“LANパーティ”や、ハッカソン(集まってソフトを開発するイベント)に似ています(写真1)。日本の展示会にあるような企業ブースもあります。

 参加の理由は「Auto Chasing Turtle」という作品の講演と展示です。Auto Chasing Turtleは、Androidを搭載した自動追尾可能なカメ型ロボット。YouTubeにアップしていた動画がもとで、講演依頼が来たわけです。講演には、世界各国からOSSの先駆者を呼び寄せ、OSSをどん欲に取り入れようとする姿勢が見て取れます。

 注目すべきは、政府までも巻き込んでいる点です。イベントのスポンサーとなっており、地元の小学生も社会科見学の一環として参加しています。国が一丸となって新規産業を興そうとしているのです。

 これが1つ目の新しい力です。日本では既存産業のオプションとしてOSSを使う方向ですが、新興国は国力増強の軸がOSSとなっています。

写真2●筆者が参加するLinaro/Androidチームメンバー
写真2●筆者が参加するLinaro/Androidチームメンバー
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 イギリスでは「Linaro」という、ARM向けLinuxカーネルを開発するOSSプロジェクトのハッカソンに参加してきました(写真2)。ARM向けLinuxはいま、SoC(System on Chip)ごとに分断された状態です。そのためLinaroは、これらを統一し最適化する目的で活動しています。

 Linaroは昨年6月に産声を上げたばかり。初期の楽しさと大変さが同居したOSSプロジェクトです。どのようにOSSプロジェクトが立ち上がり、運営されていくかを目の当たりにできます。

 OSSプロジェクトの運営を理解するのは、IT企業にとってこれから重要になるでしょう。IT企業のビジネスは、OSSプロジェクトとどのように付き合っていくかがキモになります。世界は多様化かつ複雑化しており、もはや1社だけでイノベーションを起こして開発し切るのは不可能です。イノベーションの中心が企業の研究所から、多様性を持つOSSプロジェクトの場に移ってきています。

 これこそが2つ目の新しい力、すなわち、イノベーションの軸がOSSプロジェクトとなっていることです。OSSプロジェクトの力を借り、イノベーションを興し、その周りに産業も興して発展させていく。そういうビジネススタイルに変わりつつあるのです。

 Androidはその好例でしょう。米Google社がすべて開発しているわけではなく、各種のOSSを組み合わせています。Google社はAndroidフレームワークの部分と、ビジネスの起点である「Android Market」関連だけを開発しているのです。

 ビジネスの力学が、イノベーションを通してOSSに移り、新興国における新産業の発展により、新しいビジネスが産まれる。そんな時代がすぐそこまで来ています。

レポーター:今村のりつな
SIProp.org 代表/OESF CTO
PC系から新時代に移行するための“エコシステム”を台湾の政府系研究機関で開発中。Linux/ARMやOSSを追いかけて様々な国へ飛んでいく風来坊。