アビーム コンサルティング
執行役員 プリンシパル
安部 慶喜

 本連載では、情報システム部門(IT部門)が「IFRS(国際会計基準)対策」を能動的に進めるためにはどうするべきかを中心に解説している。前回(適用延期を受けたIFRS対策の進め方)まで、IFRSの概要と動向、各種アプリケーションシステムの影響範囲と対策ポイント、そしてIFRSプロジェクトの進め方について解説してきた。

 今回が、本連載の最終回となる。IFRSプロジェクトを成功に導くコツを、四つのポイントに分けて解説したい。いずれも複数のIFRS早期適用会社における経験をもとに、筆者なりに整理したものである。

ポイント1:長期視点でのシステム方針を熟考すべし

 ポイントの一つめは、「長期視点でのシステム方針を熟考すべし」である。情報システムのIFRS対応というと、「固定資産管理システムで、定率法・定額法という二つの償却方法に対応する必要がある」「販売管理システムで、検収日を記帳日として計上する機能が必要」など、個別論点だけを取り上げても話題は尽きない。

 だが、ここで一度立ち止まって考えてほしい。IFRSの適用は、早くても5年以上先となる可能性が高い。その時まで、現行のシステムを使い続けるのだろうか。さらに、グループ子会社のIFRS対策はどうするのか。各社、バラバラでそれぞれ対策するのか。そもそも、IFRS時代の情報システムはどのような形であるべきだろうか---。

 ここで必要なのは、IFRS適用後の状況を踏まえた長期的な視点である。目先の対策にとらわれずに、グループ全体にとってどのようなシステム戦略を採るのがベストなのかを熟考することが肝要である。

IFRSになっても会計方針の変更は続く

 なぜ長期的な視点が必要なのか。目先の対策だけを追求すると、システムに対して場当たり的な対応を延々と採り続けなければならなくなるからである。

 日本の会計基準(日本基準)はこれまで、毎年のように改訂を続けてきた(図1)。

図1●長期的視点で見たシステム方針の考え方
図1●長期的視点で見たシステム方針の考え方
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 取引方法の多様化や企業形態の変化、ステークホルダー(利害関係者)が求める情報の精緻化など、めまぐるしいビジネスの変化に合わせて、会計基準はその都度、対応を迫られてきたのである。IFRSとの主要な差異を無くすコンバージェンス(収斂)の取り組みもその一つだ。