IT資産管理ソフトは通常、導入する企業の自社環境(オンプレミス)に管理サーバーを設置する必要がある。このため、サーバーの設置や、その運用・保守など、担当者にそれなりの負担がかかる。ここで導入をためらう企業は少なくない。そこで登場してきたのが、インターネットを介してIT資産管理ソフトの機能を利用できるクラウド版だ。2011年には、エムオーテックスの「LanScopeクラウドキャット」や日本マイクロソフトの「Windows Intune」といった新サービスも登場し、選択肢が広がっている。

 ただ、従来のオンプレミス版とクラウド版の違いはサーバーの設置場所だけではない。機能やコストにも違いがある。まずは、クラウド版の仕組みを見てみよう。

データセンターやPaaSを利用

図5●素早く手軽に始められるクラウド版が登場
図5●素早く手軽に始められるクラウド版が登場
プロバイダーがデータセンターに管理ソフトを入れたサーバーを設置して提供するケースが多い。2011年に入ってからは、Windows Azureを利用したサービスが登場している。
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 クラウド版のIT資産管理ソフトは、一般のクラウドサービスと同様にデータセンターを利用する。クライアントパソコンで稼働するエージェントはインターネットを経由して管理サーバーと通信する(図5)。通信プロトコルには、SSLによる暗号化を行うHTTPSを採用するサービスが多い。Web通信で一般に使われるプロトコルを採用することで、社内システムに特別な変更を加えなくても利用できるようになっている。管理ソフト上で設定するときは、Webブラウザーや専用のクライアントソフトなどを通じて管理サーバーにアクセスする。

 クラウド版の多くは、IT資産管理ソフトの販売パートナーやインテグレーター、通信事業者といった、ソフトベンダーとは別の企業が提供している。内田洋行が提供する「ASSET BASE PCスキャン」や大塚商会が提供する「アセット管理人」、ソフトバンクBBの「TEKI-PAKI」などがそれに当たる。これらは、LANDesk SoftwareやクオリティのIT資産管理ソフトをベースに提供される

 また、2011年に登場したクラウド版のLanScopeクラウドキャットとWindows Intuneは、データセンターの代わりに、マイクロソフトが提供するPaaS「Windows Azure」を利用するところが新しい(図5の右上)。

 このような仕組みで提供されるクラウド版は、(1)サーバーを構築する必要がない、(2)本社とWANでつながっていない拠点でも利用できる─というメリットがある。オンプレミス版の場合、拠点と本社の間にVPN接続環境を構築したり、ソフトベンダーが用意するゲートウエイを拠点と本社に設置したりする必要がある。これらはクラウド版では不要になるため、導入時のコストやそのスピードでクラウド版のほうに軍配が上がる。