とある企業の情報システム部の朝。部員が、出社してきた部長に声をかける。「部長、先ほどソフトベンダーのA社から内部監査を実施するようにと連絡を受けました。何のことでしょうか」。部長は一瞬困ったような表情を見せた後、「ソフトウエアライセンス監査の要請だ。これからみんな忙しくなるぞ」とほかの部員に聞こえるよう、大きな声で返事をした──。

図1●ソフトベンダーは購入者に監査を義務付けることがある
図1●ソフトベンダーは購入者に監査を義務付けることがある
契約によって監査に関する内容は変わる。ここでは、ボリュームライセンスで購入するときの契約条項の一例を示した。なお、汚れのように見えるのは透かしの一部。黄色のマーカーは編集部が付けた。
[画像のクリックで拡大表示]

 ソフトウエアライセンス監査(以下、ライセンス監査)とは、企業が利用しているソフトの数に対して、ライセンスの数が不足していないかどうかを調査することである。パソコンを導入している企業なら、冒頭のようにライセンス監査の要請を突然受けてもおかしくない。アドビ システムズや日本マイクロソフトなどソフトベンダーは、ソフトの使用許諾契約書のなかでライセンス監査の実施を義務付けることがあるからだ()。監査で不正コピーが見つかれば、高額な請求を受けることもある。

 このライセンス監査で力になってくれるのが、IT資産管理ソフトだ。

 IT資産管理ソフトは、社内LANにつながるクライアントパソコンにインストールされているソフトの情報(種類とバージョン、プロダクトIDなど)を収集し、それを台帳として出力できる。これを監査に利用する。

 ここまで読んで、「それならネットワーク担当者に無縁のソフトでは?」と思われたのかもしれない。確かに以前はそうだった。ところが、最近のIT資産管理ソフトはネットワーク関連の機能強化が著しい。そこで本特集では、(1)クライアントパソコンの省電力設定をネットワーク越しに行う「電源管理」、(2)導入のハードルを大きく下げる「クラウド版」、そして(3)新たな管理対象としての「スマートフォン対応」を解説する。また、今回初めてIT資産管理ソフトを知ったという人に向けて、基本機能を紹介する。併せて読んで「今どき」のIT資産管理ソフトを理解してほしい。

Windows 7への移行サポート、方法は大きく二つ

 IT資産管理ソフトには、クライアントパソコンのOSを管理できるものがある。インストールされているOSの初期状態を記録し、不具合があったときは初期状態に戻す機能である。この機能を利用することで、クライアントパソコンのOSをWindows XPからWindows 7へ移行させられる。

 OSの移行には、大きく二つの方法がある(図A)。一つは、クライアントパソコンに移行先のOSをインストールした状態を作り、そのハードディスクのデータ(ハードディスクイメージ)を利用する方法。このイメージを同じ種類のクライアントパソコンのハードディスクに流し込むようにして新しいOSを移行させる。もう一つは、クライアントパソコンのハードウエアに合わせたOSのインストールメディアのイメージを作る方法である。クライアントパソコンでは、このイメージを使って新しいOSをインストールする。

 例えば「LANDesk Management Suite」や日本マイクロソフトの「System Center Configuration Manager」は両方に対応。Kaseya Japanの「Kaseya」はハードディスクのイメージを使う方法に対応する。

図A●ハードディスクイメージとインストールメディアのどちらかを使うタイプに分かれる
図A●ハードディスクイメージとインストールメディアのどちらかを使うタイプに分かれる
ハードディスクのイメージは、あらかじめクライアントにセットアップを行い、作成しておく。インストールメディアは、クライアントの構成情報に合うようにカスタマイズする。
[画像のクリックで拡大表示]