900MHz帯の割り当て申請である「3.9世代移動通信システムの普及のための特定基地局の開設計画に係る認定申請」は携帯電話事業者4社が申請したと、総務省は2012年1月30日に公表した。そのうちの1社であるイー・アクセスは、総務省が申請を締め切った1月27日に、いち早く申請内容の概要を明らかにした。イー・アクセス 執行役員 企画部長の大橋功氏に申請内容の詳細を聞いた。(聞き手は日経ニューメディア記者、松浦龍夫)

審査で第1、第2の基準となる、「ICタグ(RFID)やMCAの移行費用負担額」および「2018年度末のLTE人口カバー率」について申請内容を教えてほしい。

大橋 移行費用については、上限値の2100億円を負担可能であると開設計画に記載した。また、2018年度末のLTEの人口カバー率は99.4%とした。人口カバー率は95%を超えて100%までを同じ値として審査するため、99.4%は最も高いランクになる。いずれの基準とも他事業者に劣った時点で審査から脱落するルールであるが、我々は最も高い値を回答した。

イー・アクセスの900MHz帯の開設計画では、上下5MHzの周波数が利用できる2012年はまず3G(HSPA、最大下り速度21Mbps)でエリアを広げるとある。従来はこの上下5MHzですぐにLTEを開始すると主張していたのではなかったか。

大橋 総務省の開設指針において、周波数を割り当てた当初からLTEを展開する前提とはなっていないことも踏まえ、どのような利用方法であればメリットが最も大きくなるかを考えて方針を見直した。まずはこの上下5MHzを使って、全国の3Gエリアをしっかり広げることに注力したいと考えている。当社は現在1.7GHz帯を利用しているが、都市部における屋内への浸透度合いおよびビル陰への回り込みといった面や、郊外におけるエリア展開の容易さでは900MHz帯は有利な面が多い。この利点を活かしたい。

 また900MHz帯はUMTSのBand8として規定されており、世界で共通的に携帯電話で利用されている。このためBand8で使える端末の調達は容易かつ安価になっている。例えば日本で900MHz帯のMVNO(仮想移動体通信事業者)を募集する際も、端末が安価であるためにユーザーに提供しやすく、新規事業者が容易に参入できるようになるメリットもある。

900MHz帯は3Gに加えて、その後にLTEのエリア整備を行うことになる。二重投資にならないか。

大橋 そこは基地局設備を3GでもLTEでも共通的に利用できるようにすることで、非効率になることを避けるつもりである。また当社はスマートフォンでの音声通話にも今後注力していくため、3Gでのエリア展開は欠かせないものになる。

 1.7GHz帯の3GとLTE、900MHz帯の3Gを組み合わせて、一つの通信サービスを展開することも想定している。トラフィックの状況や電波の状況を見て、いちばん高速に利用できる電波を利用するイメージである。当然900MHz帯でLTEを開始すれば、1.7GHz帯の3GとLTE、900MHz帯の3GとLTEという四つの通信を使い分けるようにする予定である。

その他の審査基準ではどのような申請をしたか。

大橋 終了促進計画の充実度という項目では、社内に専門部署「終了促進センター」を立ち上げ、窓口の一元化を図る。ICタグやMCAの周波数移行に必要なモデルケースを作成し、各事業者と話し合える体制を整えた。また、事業者が客観的な立場からアドバイスを受けられる第3者機関として「一般社団法人 900MHz帯利用者支援センター」を設立する。有識者や学識経験者やICタグ、MCAのベンダーで構成する。

 MVNO計画の充実度も、多様なプランをメニュー化して参入を容易にする工夫をした。例えば相互接続/卸役務に加えて、「定額制/従量制で貸す」「速度制限して貸す」「データ通信のみ/音声通話込み」といったものから、端末提供や料金回収などの業務も受託できるようにした。料金は他社のMVNO料金よりも競争力のある価格で提示する予定である。

周波数帯の有無や差異、割り当て周波数幅に対する契約数も審査項目になっている。周波数幅に対する契約数はイー・アクセスに不利との声があるが。

大橋 割り当て周波数幅に対する契約数は割り当て事業者を決める主要因とすべきでないと考えている。各事業者が同様な周波数帯を割り当てられた上で、周波数当たりの契約数に開きがあるならばそれは事業者の努力の差であるが、現在の4社の周波数割り当て状況はイコール・フッティングになっているとは言えないからだ。当社に割り当てられれば4社での競争環境が整い、ユーザーに利便性の高いサービスが提供されるようになるのではないか。