クラウドが変えるシステム運用の新常識の一つめは、「運用はライフサイクル管理」という考え方だ。インフラの提供者として、企画・設計、運用・改善を続けることを意味する。

 この新常識を実践するには、従来の「システムのお守りだけをきちんとすればよい」という発想を変える必要がある。だが、意義を理解できても実践に移すのは容易でない。先行各社は、システム運用のベストプラクティス集である「ITIL(ITインフラストラクチャーライブラリー)」を活用するケースが多い。開発部門と協調しやすい仕組みをつくることも大切だ。日本ゼオン、東京海上日動火災保険、カシオ計算機、オリンパスなどの取り組みを見ていこう。

10年がかりで意識改革

 10年以上をかけてライフサイクル管理に取り組んでいるのは、ジスインフォテクノだ。合成ゴム大手の日本ゼオンの情報システムを開発・運用する子会社である。

 「10年前と比べると、同じ運用担当者とは思えない」。ジスインフォテクノの石橋健取締役は目を細める。「以前は障害が発生しても報告書すら書かなかった。今では障害の根本原因を見つけ出し、インフラ設計に反映している」。

 日本ゼオンは現在、部分的にパブリッククラウドを利用しており、これから本格的にプライベートクラウドに取り組む。「インフラ運用ではライフサイクル管理を徹底しているので、コストと品質を常に最適な状態で維持できるはずだ。開発部門へのフィードバックも形になりつつある。開発側が無駄に仮想マシンを使ったり、使いっぱなしにしたりする事態は回避できそうだ」(同)。

 一時中断はあったものの、ここに至るまで長い期間を要した(図1)。同社が運用改革に着手したのは2000年。まず、全社のセキュリティ体制に関するライフサイクル管理を目指すISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)への対応を始めた。

図1●日本ゼオンの運用体制の変化
図1●日本ゼオンの運用体制の変化
1995年当時は障害対応もままならない状態だったが、2007年からライフサイクル管理の考え方を取り入れるようになった。2011年には運用部門がクラウドベンダーの選定基準を策定するまでになった
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 2005年から、ITILが示す運用プロセスの定着を進めている。当初はITILバージョン2(V2)のインシデント管理や変更管理の実践に取り組んだ。2010年からは、ITILの最新版であるバージョン3(V3)への対応を進めている。V3はV2よりも、ITサービスのライフサイクル管理を重視している。