by Gartner
デイビッド・ファーロンガー VP兼ガートナー フェロー
アンドレア・ディ・マイオ VP兼最上級アナリスト
松原 榮一
 リサーチVP

 ユーロ危機がもたらすリスク、すなわち政府や銀行のデフォルト(債務不履行)、単一通貨「ユーロ」の崩壊、取引先企業の倒産、社員や顧客の経済的苦境――。企業のCIO(最高情報責任者)は、これらのリスクから企業を守るため、直ちに行動を起こすべきだ。

 経営幹部のなかでもCIOは、ユーロ危機がもたらす問題をクリアに見通し、対処できる手段を持つ唯一の人間である。CIOはビジネスとITをつなぐ支点に位置するからだ。今回の危機はCEO(最高経営責任者)にITの真の価値を示す絶好の機会にもなる。

 ガートナーは、ユーロ危機が企業に四つの課題を突きつけると考えている。CIOはそれぞれについて対策を講じる必要がある。

課題1:市場の不安定性

 ほとんどの企業は、官僚的な業務プロセスや不透明な意思決定メカニズムを数多く抱えている。ユーロ危機に直面した企業は、このような非効率なプロセスを再構築する必要に迫られるだろう。

 こうした局面でのCIOの仕事は、ITの力で組織のスピードと瞬発力、適応力を高めることだ。人事の柔軟性や分散型の指揮管理を基盤とした「変更管理(Change management)」の能力が、何より求められる。

課題2:資本コスト

 欧州各国の構造的不均衡が是正されるまでは、ユーロ圏での資本調達コストは上昇し続けるだろう。企業に設定された融資限度額は縮小し、企業は在庫の削減を迫られる。

 こうした状況では、企業の連鎖倒産で部品の供給がストップするなど、サプライチェーンの崩壊がいつ起きてもおかしくない。CIOは不測の事態に備え、確実にバックアップが可能な事業継続計画を策定する必要がある。

課題3:人材マネジメント

 欧州では、何百万もの人々が職を失った。政府は緊縮政策を実行し、企業が給与や福利厚生を抑制したことで、従業員は過大な負担を強いられている。

 このためCIOは、従業員のモチベーションを維持する策を講じ、優秀な人材を雇用するための資金を確保しなければならない。特に、優秀な外国人従業員が企業を去ってしまう「頭脳流出」のリスクには注意が必要だ。よりよい労働条件を求めて国を去るか、あるいは政府が失業対策のために外国人の労働許可を取り下げてしまう可能性もある。

課題4:リスク管理

 企業および市場関係者の多くは、欧州の政府や取引先企業がデフォルトに陥る可能性があると信じている。このため、売掛金管理がこれまで以上に重要になる。加えて、企業の内部/外部を問わず不正行為が発生するリスクにも注意を払う必要がある。

 企業はこれまでも、事業にかかわる様々なリスクを特定し、ITで効率的に管理するための努力を重ねてきた。だが、ユーロ危機に際しては、リスクを予測するのに過去のデータはあてにならない。CIOは、「過去データがないなかで、どのようなリスクモデルを描くべきか」を改めて問い直す必要がある。