プライバシー保護が重視される時代に、インターネットなどで情報を広く公開する「パブリック」の意義を説き、実践を呼びかける書籍である。企業での実例も紹介し、企業情報の開示方針や個人情報との関わり方を再考する上で、重要な示唆を与えてくれる。

 筆者は、前立腺癌治療の体験を包み隠さずブログで投稿するなど、自ら「パブリック」を実践するジャーナリストである。「パブリックにすれば嘘はすぐにばれる。だから正直であろうと努める」と全体で一貫するパブリックの意義を説明する。

 筆者が「パブリックの預言者」と呼ぶ、米フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏との対談も興味深い。同氏は実名制のソーシャルメディア「Facebook」により、「ユーザーは情報共有を通じて自分を把握でき、足りないことを学べるなど人間性を高めている」と発言。筆者も賛同する。

 法令順守が定着するなど、パブリックは企業文化も変えるという。米バンカメリカは情報暴露サイト「WikiLeaks」に対抗し、情報漏洩を防ぐ「作戦司令室」を設けた。同じ時期に、米グーグルは情報開示を推進する「データ開放部門」を置いた。これらの事例から、パブリックは「暴露されて困ることはしない」という意識を根付かせ、経営の透明性を高めると説く。

 人々の協業や絆が生まれ、集合知を形成し、偏見を解くなどのメリットも挙げる。ユーザーを巻き込み新製品を開発したチョコレート会社や、ベータ版の公開で製品を改善したIT企業など、パブリックで成果を生んだ企業事例が詳しい。

 個人での取り組み方にも言及する。プライバシーと折り合いを付けながらパブリックに参加する方法やヒントをまとめた「八つの法則」は明快でとても参考になる。その一つ「飲んだらネットに近づくな」との忠告にはドキッとさせられるが、強い説得力がある。本書を参考に、ぜひ企業やビジネスパーソンもパブリックへの参加方法を考えてはどうだろう。

評者:村林 聡
銀行における情報システムの企画・設計・開発に一貫して従事。三和銀行、UFJ銀行を経て、現在は三菱東京UFJ銀行常務執行役員副コーポレートサービス長兼システム部長。
パブリック

パブリック
ジェフ・ジャービス著
関 美和訳
小林 弘人監修・解説
NHK出版発行
1890円(税込)