利用部門のユーザーから出てきた要望は即座に受け入れる。現場では、このようなPM(プロジェクトマネジャー)の振る舞いをしばしば見かける。このとき、PMが頭をフル回転させ、相手の問いかけに対して自分なりに考えた結果、要望を受け入れると答えているのであればそれでよいだろう。そういう場合は、引き受けた後、うまく事が運ぶことは多い。

 ところが、「この場さえしのげれば後は何とかなるだろう」と、後先を考えずに場を取り繕うことを優先してしまうケースもある。特に、利用部門の担当者との会議の雰囲気が重苦しくなった場合にやってしまいがちだ。

 しかし、PMはその場しのぎで取り繕ってはいけない。プロジェクトを進めていく過程で発生する問題に対して「その場しのぎ」で対応すると、PMだけでは収拾できない事態に発展してしまう可能性が非常に高いからだ。

初めてPMを任されたT君のケース

 T君は大手外資コンサルティング会社からSIベンダーに転職してきた中堅SEである。現場で問題が発生したときにうまくその場を取りまとめる力があり、これまで大きなトラブルを起こしていない。その実績から、T君は、あるユーザー企業のクライアントPCを刷新するプロジェクトのPMとして抜擢された。

 T君が担当するプロジェクトでは、それまでユーザー企業の利用部門で使っていた、既存のWindows XP搭載PCをすべて、Windows 7を搭載した新しいPCに一斉に入れ替えるというものだった。またそのユーザー企業では、メインフレーム上で稼働する部門向けシステムが複数あった。そのため、PCにはホストエミュレーターを動作させる必要があった。

 T君のプロジェクトでも、新しいPCに、市販の新しいホストエミュレーターをあらかじめインストールした上で、入れ替える。そのためプロジェクトでは、入れ替え前に新しいホストエミュレーターの動作検証を実施することになった。

 「初めてのプロジェクトだから絶対に失敗は許されない」。転職して初めてPMを任されることもあってT君は張り切っていた。プロジェクトが始まってからのT君の仕事ぶりは、初めてとは思えないほど、しっかりとしていた。

 ユーザー企業の利用部門からの要望に対して、今回のプロジェクトのスコープと照らし合わせながら協議。その中で、プロジェクトで取り組むものと、プロジェクト後に対応するものを分けていった。テキパキと物事を即断して決めて行く態度に、プロジェクトのメンバーから「頼もしいPM」とさえ思われていた。