この特集の第1回で書いたように、「2012 International CES」(CES2012)に参加し、これまでの開催と最も大きな違いと感じたのが、出展各社の訴求ポイントが「製品単体の性能から新しいユーザー体験の提案」に移っていることである。外形寸法やデータ処理能力などの仕様を並べてアピールする展示や発表は極端に減り、その製品を使って「何ができるか」「どれだけ便利か」を訴えるものが多くなった。

背景に中国メーカーの台頭

写真1●ハイアールが出展したタブレット端末「HiPad」
写真1●ハイアールが出展したタブレット端末「HiPad」
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 注目製品の一つであるスマートフォンについて言えば、機能が多いだけに分業が進むことで表示パネルやプロセッサー、メモリーといった部品は共通化し、製品全体としては大きな違いが見せにくくなっている。最新の部品を搭載した時点では一時的に優位に立てたとしても、数カ月以内に登場する機種ではキャッチアップされてしまうのが当たり前だ。

 日本メーカーの得意分野とされている統合技術にしても、さほど違いはなくなっているように見える。例えば、携帯端末メーカーとしては後発である中国のファーウェイ・テクノロジーズが今回のCESで発表したスマートフォン「Ascend P1 S」の厚さは6.68ミリメートル。高速通信のLTE(Long Term Evolution)やデュアルコアのプロセッサー搭載などにもいち早く対応し、仕様だけを見ればシェア上位メーカーとの違いは見えにくい。さらに、ハイアールやハイセンスといった白物家電やテレビで知られる中国メーカーも、スマートフォンやタブレット端末に本格参入している(写真1関連記事)。

ペン入力や画面連携など新しい用途を提案

 そこで、先行メーカーは新しい用途の開拓を急いでいる。その多くに共通するのが、SDK(ソフトウエア開発キット)を配布したり、API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を公開するなどしてサードパーティを巻き込んだ“エコシステム”(生態系)を構築しようとしていることである。ある企業が、単独で魅力的なサービスを開拓することには限界がある。そこで外部のアイデアや迅速な開発力を取り込もうとしているのだ。

写真2●サムスン電子のGalaxy Noteによる似顔絵コーナー
写真2●サムスン電子のGalaxy Noteによる似顔絵コーナー
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 例えば、韓国のサムスン電子は北米でも発売するスマートフォン「Galaxy Note」をアピールするにあたり、ペン入力システム「S Pen」による手書き入力を前面に推していた。同社の展示スペースのほか会場の通路スペースにも特設コーナーを設けて、Galaxy Noteを使って似顔絵を描くというものだ(写真2)。サムスンは、社外の開発者へも積極的に働きかけている。「S Pen」を利用するアプリケーションを開拓するため、SDKを無料で配布中だ(同社のダウンロードページ)。

 ソニーとソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズが見せていたのは、複数のスクリーン間でのコンテンツ共有機能である「Play on device」(写真3)。ソニー・エリクソンのスマートフォン「Xperia」上のコンテンツを、テレビなど別のソニー製品に転送する。無線LAN端末間のピア・ツー・ピア通信機能であるWi-Fi Directを使い、特定の対象端末向けに目的のコンテンツを選んで転送する。スマートフォンで撮影した写真をテレビに映したり、再生中の音楽の続きを据え置き型のステレオで再生する、といった使い方を想定している。サムスンも、パソコンやスマートフォン、テレビなどの間でコンテンツを共有・検索・再生できるためのサービス「AllShare」を見せていた(写真4同社の説明ページ)。

 ソニー・エリクソンはまた、スマートフォンと腕時計型Android端末「SmartWatch」を連携したサービスも提供する(写真5)。SmartWatchは、スマートフォンからBluetooth経由で着信通知やメール、Twitter、Facebookの確認などができる。同社が提供する開発ツールを使えば、サードパーティも対応アプリを開発可能であり、今後、国内外でサードパーティーに向けてSmartWatch対応アプリの開発を働きかける(参考情報)。

写真3●ソニー・エリクソンの「Xperia」最新機種に搭載されるコンテンツ共有機能「Play on device」の画面
写真3●ソニー・エリクソンの「Xperia」最新機種に搭載されるコンテンツ共有機能「Play on device」の画面
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写真4●サムスン電子によるコンテンツ共有サービス「AllShare」のデモ
写真4●サムスン電子によるコンテンツ共有サービス「AllShare」のデモ
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写真5●ソニー・エリクソンのスマートフォンと連携する小型端末「SmartWatch」
写真5●ソニー・エリクソンのスマートフォンと連携する小型端末「SmartWatch」
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