風雲急を告げる欧州金融危機は、ユーロ液状化現象に連なってゆくだろう。「自分だけ儲かればよい」「後先のことは考えず、今、儲かればよい」という強欲金融資本主義の断末魔に喘ぎ、行き過ぎた自由のもとで国家は暴走する。そして、いずれ米国、日本、新興国へと連鎖することになるクライシスを前に、「自由」のあり方が問われなければならない。

東京農工大学大学院産業技術専攻 教授
松下博宣

 2012年1月13日、米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、フランス、オーストリアの長期ソブリン信用格付けを最上級の「トリプルA」から1段階低い「ダブルAプラス」に落とした。そしてイタリア、スペインにいたっては2段階の格下げ。さらに1月16日、欧州連合(EU)の金融安全網である欧州金融安定基金(EFSF)の信用格付けを最上級の「トリプルA」から1段階引き下げ「ダブルAプラス」にすると発表した。

 そのためにEFSF債の利回りは上昇し、ギリシャなど債務不安国に融資する資金の調達コストが上昇してしまった。EFSFの枠組みを構成して、恒久的な安全網とされている欧州安定メカニズム(ESM)もうまく機能しなくなるだろう。

 だからといって“ユーロ崩壊”などというセンセーショナルな事態にはならない。崩壊には、そうさせるための緻密な計画が必要だが、今のところ、そのような材料は見当たらない。このまま事態が進展すれば、インフレまみれの“ユーロ液状化”に至るだろう。

クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は金融核爆弾

 クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)をして「金融核爆弾」と命名したのは、著名投資家のウォーレン・バフェット氏である。露骨な表現だが、本質を突いている。なぜ、CDSは金融核爆弾なのか。

 CDSが一躍、一般の関心に上ったのは2008年のリーマン・ショックの時だった。米大手投資銀行のリーマン・ブラザーズが潰れたとき、リーマン・ブラザーズのCDSを保証していたアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)は、そのCDSを全米、世界中の保険会社に対して販売していた。

 CDSとは、他人の家に火災保険をかけ、その家が火事で灰となったときに、赤の他人が火災保険金を受け取るような仕組みだ。たとえば、ある企業が破綻するリスク(Credit risk)が5%だったとしよう。ある投資家が当該企業のCDSに500万円投資した後、その企業が破綻して債務不履行になれば、投資家は1億円を手に入れるという仕組みだ。CDSは、このような債務不履行のリスクに対する保険サービスである。

 リーマン・ブラザーズが破綻に追い込まれた時、負債総額は6130億ドル(当時の為替レートで換算して約64兆5000億円)に上り、米国史上最大の倒産となった。リーマン・ブラザーズの破綻に対して掛けられていたCDSの契約残高(想定元本)は約40兆円。決済しきれない巨額だったため、関係者が集まって話し合い、9割を損失にせざるを得なくなった。そして、関係者で損失を痛み分けたのだ。

CDSと同類の合成債務担保証券(合成CDO)

 合成債務担保証券(合成CDO)は、資産担保証券の一つで貸出債権や社債を対象資産とする証券化商品だ。まったく無関係の人に、保険金受け取りの権利だけが切り離されて売買される。つまり、保険金を受け取る権利が独り歩きして流通する。

 合成CDOでは、低リスク・低リターンのグループ(リスク・プール)から高リスク・高リターンのグループまでいくつかのリスク・プールを作る。そして、格付け会社の格付けに応じて、リスク・プールごとに商品を細分化、小口化して無数の顧客にばら撒く。前述したCDSと合成CDOは、金融サービスとして融合している。

 AIGは、リーマン・ブラザーズの破綻に対応するCDSや合成CDOを売っていた。つまり、AIGはリーマン・ブラザーズほか、巨額のCDSや合成CDOを残高として抱えていた。そしてリーマン・ブラザーズが破綻した時、CDSによる倒産保険金を決済できなくなり、致命的な資金不足に陥った。その結果、本来なら即時破綻となるところだった。

 しかし、AIGが破綻すれば、AIGと契約しているすべての企業は大損失を被り、大混乱・連鎖倒産が発生する。だから米国政府は巨額の税金を投入してAIGを救済せざるを得なかった。

 CDSや合成CDOは、平時にはリスクをプロテクトする便利な金融商品だが、想定していた破綻が現実のものになると、熾烈な破壊力で爆発する金融商品なのである。その力の恐ろしさはリーマン・ショックで実証済みだ。