有限責任 あずさ監査法人
製薬ワーキング・グループ
パートナー 公認会計士
黒川 義浩

 本連載は、日本企業がIFRS(国際会計基準)を導入する際の留意点からIFRSによるインパクト全般までを主要な業種別に見ていくことを目的としている。前回は組立型製造業におけるIFRS導入のポイントを説明した。今回は医薬品業を取り上げる。

 近年の製薬業界では、“ブロックバスター”と呼ばれる年間数千億円を売り上げるような新薬の開発は難しくなっており、新薬開発にはこれまで以上に多額の研究開発投資が求められる状況となっている。

 こうした状況の中、製薬会社は自社で新薬の開発や市場開拓を行うだけでなく、有望な新薬候補(パイプライン)を持つ企業や新興国に販路を持つ企業を買収したり、同業他社から新薬開発ライセンス・製造販売権を取得したりするなど、M&A(合併・買収)戦略を積極的に推し進めている。武田薬品工業がスイスの製薬大手ナイコメッドを96億ユーロ(約1.1兆円)で買収したのは記憶に新しい(2011年10月に買収手続き完了)。

 他方、製薬会社は、自社の医薬品を販売することに加えて、自らが開発した技術や製品の販売権を同業他社へ供与するなどの手段によっても収益を得ている。

 今回は、製薬会社の活動がIFRSの適用によってどのような影響を受けるのかについて、次の三つの視点から説明する。

  1. 研究開発活動への影響 ~開発費は資産計上されることになるのか
  2. 企業買収や権利の取得に関連する影響 ~減損リスクが高まり買収の巧拙が一目瞭然に
  3. ライセンス供与に関する収益認識への影響 ~基準の改訂動向に留意が必要