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過去にはどんな事故があったのか (2/2)

2012/02/07
岸本 善一=米IP Devices (筆者執筆記事一覧

避難ガイドライン

 現在に至るまで、100%安全なシステムを人類は構築してきていない。これからもできないであろう。原発は、事故が起こるかもしれないという仮定の下で建設されなければならない。最悪の場合を想定して付近住民の避難も想定に入れる必要がある。では、米国の避難の手順はどのように定義されているのだろうか。原子力規制委員会(NRC:Nuclear Regulatory Commission)は、原子炉の破壊度や放射能の漏れの状態などにより、事故の大きさに応じて4段階の警告を決めている。

 福島第一原子炉の事故の際、米国政府は東京の大使館を通じて日本に住む米国人に対して半径80km(50マイル)以上離れた地域に避難するよう警告した。日本政府の避難命令は10km、20kmそして30kmへと拡張されたが、80kmはそれをはるかに超える距離であったことから、米国も諸外国のようにいたずらに不安をあおっているとの批判も聞かれた。

 80kmというこの数字はどこから出てきたのだろうか。NRCでは原子炉の緊急時の避難マニュアルが設定されている。それは1979年のThree Mile Island原発の事故の教訓によるものだ。さらに、2001年には9.11のテロリストによる本土攻撃を受け、原子炉の爆発などの緊急事態発生に、自然災害のほかテロリストによる攻撃も追加したセキュリティ態勢を構築した。

 NRCは緊急時計画ゾーンと呼ばれる避難区域を二つに分けている。半径16km(10マイル)の直接被爆地域と、半径80km(50マイル)の経口摂取被爆地域である。半径16kmは直接被爆の可能性が高い地域で、経口摂取被爆地域は放射能で汚染された食物や飲料水の経口により内部被爆の危険がある地域である。ここで気がつくのは、福島第一原発後に日本の米国大使館が自国民に対して出した「半径80km以遠に避難せよ」という警告だ。これは、実は経口摂取被爆地域の範囲だったのだ。米国政府は状況がはっきりしない中、自国民の安全を考え最悪のシナリオを想定して自国民の保護のために警告を発したのである。

 NRCのマニュアルを詳細に読めば、たとえ直接被爆地域である半径16km内であっても、全員の避難は必要ないと明記してある。放射性物質は風で運ばれ、距離が離れるに従ってその濃度が減少するため、必ずしもすべての方向がすぐに危うくなるとは限らないからだ。もちろん風下の地域には特に注意を払うべきだ。また、半径3.2km(2マイル)の地域と風下に当たる半径8km(5マイル)の地域、およびそれに隣接する地域は全員の避難が必要である。これを図6に示す。もちろん、風の吹く方向は一定ではないので、その都度、避難地域を見直す必要はある。

図6●避難地域と警戒地域
図6●避難地域と警戒地域
一番内部の円は半径3.2kmで全員避難。次に大きい円は半径8kmで、風下(黒い矢印が風向きを示す)に当たる地域(赤く塗られている)は避難が必要。一番大きな円は半径16km(出典:NRC)

 それ以外の半径16km(図6で一番外の円)の地域の住民に対しては、屋内にとどめ、風向きの変化や事故の状況の推移を見ながら、臨機応変で退避警告を発することになる。

 とは言え、やはり80kmが一つの目安となる。人命に重いも軽いもないが、半径80km内の人口が1000万人を超える原発と数万人しかない原発は同等に扱えない。また、米国の原発は現在まで地震が起こっても正常に停止し冷却は続けられたが、今後原発のすべては地震そのものの破壊エネルギーに耐え、地震の原因となる断層上や近くになく、系統から離脱した際に冷却が保証されるのだろうか。

 言うまでもなく、原発の問題は一旦問題が起これば、際限なくその影響は広がり持続する。原発の設置場所は非常の際に大きな意味を持つ。影響を受ける人の数が少ない場所に設置すればよいというものではない。しかし、東京、大阪、名古屋といった大都会の近くに設置された場合の事故は、首都機能やビジネスや製造の機能を完全に破壊してしまい、国としての存在すら危うくする。福島第一原発と東京の距離は200kmほど離れている。関西電力の原発と京都市の距離は約50km弱、大阪とも百km程度だ。

 では米国はどうだろうか。大都市に近い場所に設置されている原発があるのだろうか。検証してみた。

岸本 善一(きしもと ぜんいち)
米IP Devices代表
 京都大学電気工学科を卒業後,米国でコンピュータ・サイエンスの博士号を取得。GTE研究所,Hewlett-Packard,北米NECを経て 1998年にIP Devices社を設立。先端技術をビジネス展開に結びつけるコンサルティング業務を提供する一方,NASAの技術を商品化する Intellimotion Systems社のCOO/CTO,オープンソースの負荷分散・ハイアベイラビリティに重点を置いたInternet Appliance社のCTO,小型モバイル組込みシステムのセキュリティを提供するCardSoft社のVP Strategic Alliancesを務めるなど,ベンチャー企業での技術とビジネスの融合にも力を注いでいる。米国のオープンソース企業,MySQLやJBossの日本市場参入も手がけ,最近は米国AltaTerra社と協業でスマートグリッドやグリーンITの市場調査を行っている。
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