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 米国で30年続いた原子力発電所のモラトリアムが終了しそうだ。世論調査の結果を見ると、多くの人々は原発に不安を抱えながらも、その運用を認めている。しかし、104基ある原発のうち52基は一般的に寿命とされている40年の運用に迫っている。

 寿命も心配だが、地震や津波、その他の自然災害、人為ミス、テロなどで障害が生じたとき、原発は大丈夫なのだろうか。そもそも米国の原発には地震の心配はないのだろうか。断層の上や近くに建設されていなかったのだろうか。また、福島第一原発のように地震には耐えたが、津波で冷却用の予備電源が破壊されるようなことが起こっても大丈夫なのだろうか。最悪の事故が起こった場合はどこまで避難すれば十分なのだろうか。この記事では、こういった疑問に答えながら、今すぐにでも停止した方がよい原発は米国にあるのか検証してみた。

過去の事故や自然災害による停止や事故

 米国では2011年に、自然災害や系統バランスが崩れたために停止した原発が3基あった。どれも系統電源喪失中に非常電源は保持され、冷却に問題はなく電力系統が回復すると正常に戻った。

 一つ目は2011年8月23日、首都であるワシントンの近郊(145km南東、バージニア州の州都のRichmondからは80km)で発生した地震(マグニチュード5.8)によるもの。電力会社のDominionが所有するNorth Anna原発(図5の青色の点。2基で総発電機能186万kW)が停止した。その際、電力系統も一時的に遮断されたため、ディーゼルによる非常用電源によって冷却が続けられた。その後、系統が回復して、通常の冷却が行われるようになり大事には至らなかった。点検の後、11月半ばに運転再開が許された。North Annaは、米国で地震により自動停止した最初の原発となった。

図5●San Ofroe原発(ピンクの点)、Browns Ferry原発(オレンジの点)、North Anna原発(青色の点)、Three Mile Island原発(黄色の点)の位置
図5●San Ofroe原発(ピンクの点)、Browns Ferry原発(オレンジの点)、North Anna原発(青色の点)、Three Mile Island原発(黄色の点)の位置

 二つ目は2011年9月8日、サンディエゴの大規模停電(関連記事)によるもの。東に隣接するアリゾナ州からの大電力送電線が送電を止めたことで、系統内に障害が生じた。北からの大電力送電線の中継地点にあったSan Onofre原発(図5のピンクの点、235万kW、ロサンゼルスの電力会社SCEが運営。ロサンゼルス市とサンディエゴ市までそれぞれ約100kmと72km)も、それを察知して作動を停止したのだ。これは、系統内に障害が起きたときに自動停止するように設計されているためで、正常な反応と言える。この場合は電源を喪失したわけではないので、冷却はそのまま持続され大事には至らなかった。9月12日に運転を再開した。

 三つ目は2011年4月末、雷雨と竜巻によるもの。南部にあるアラバマ州のBrowns Ferry原発(図5のオレンジの点。3基で330万kW)が外部電源を喪失し、非常電源で冷却を持続した。三つの原子炉はすべて5月末には再開した。

 この三つのケースでは、もしなんらかの理由で冷却ができなかったら、Three Mile Island原発(図5の黄色の点。79万kW。事故は2号基のメルトダウンであった。その後1号基も停止されたが、1985年に運転を再開し、2009年には運用ライセンスが更新され2034年まで稼働が許され現在も稼働中である)や福島第一原発と同じ運命をたどる可能性もあった。そう思うと冷や汗が出る。

 これ以前にも、事故や災害で停止を強いられたケースは結構ある。もちろん、最大のものはThree Mile Island事故である。この事故に関しては多くの報道があるので、ここで詳細は繰り返さない。原因は、機材の不具合とそれに正しく対処できなかった人為ミスとされている。冷却が出来なくなって原子炉内が高熱になり、コアのメルトダウンが生じた。原因は違うが、福島第一原発の事故と同様の問題が起こったわけだ。簡単に言えば、地震や津波が起こらなくても事故は起こった。

 すべての原発の事故の数を入手することは困難である。この他にも死亡や損害があった事故も含めると米国では数十件に達すると推定される。様々な理由から冷却が停止したコアメルトダウン(全炉心溶融)や水素爆発、火事、放射能漏れなどが現実に起きている。