中国・瀋陽を本拠地とするIT大手の東軟集団は、2011年6月にNECと、7月には東芝ソリューションとそれぞれ合弁企業を設立した。NECとはクラウド分野を、東芝ソリューションとは個別のシステム開発からBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)まで幅広い分野のITサービスを中国で展開する(関連記事)。東軟集団の王勇峰総裁兼副董事長に、日系IT企業と相次いで合弁企業を立ち上げた狙いや、今後の提携戦略について聞いた。

(聞き手は宗像 誠之=日経コンピュータ



写真●東軟集団の王勇峰総裁兼副董事長
写真●東軟集団の王勇峰総裁兼副董事長

NECとクラウド分野での合弁企業を設立した。

 2000年はじめからNECとはオフショア開発の受託で関係を強めてきた。2005年ころから、IT分野ではさらに深く付き合うようになり、共同の事業展開もするようになった。例えばNECのミドルウエアなどを検証して東軟のソリューションに組み込むことなどを始めた。

 そういう経緯を考えると、今回のNECとのクラウド分野での合弁企業設立は、同社との協業における三つめのステップになる。NECはクラウドで先進的な技術を持ち、基盤構築でも実績がある。クラウドで両社が手を組むのは自然の流れだ。

 NECのクラウド分野での様々な技術は、東軟集団がまだ持っていないものであり魅力がある。合弁を通じて中国市場へ展開し、我々も技術やノウハウを学びたい。

中国でもクラウドは既に普及期に入っているのか?

 様子見の段階からは完全に脱して、本格的に普及するフェーズに入っている。中国でもクラウド市場は拡大を始めており、ここ数年は年率3割~4割増のペースで伸びる予測だ。

 まだ中国のIT市場はハードウエア販売が中心だが、徐々にソフトウエアやサービスの売り上げ比率が高まりつつある。世界のIT市場を見ても、ハードからソフト、サービスへと売り上げ比率の重点は移っている。中国も同様で、今後はサービスであるクラウドが伸びていくはずだ。

東芝ソリューションとは、包括的なITサービスの提供で合弁企業を作った。

 東芝グループとは、15年以上にもなる長い提携関係がある。東軟の発展に貢献してくれた企業で、互いの信頼関係も強固だ。

 NECとの合弁はクラウド事業が中心となるが、東芝ソリューションとの合弁は、手がける事業の幅が広く、より個別の顧客ニーズに対応するソリューション提供まで踏み込む。

 東芝ソリューションとしては、まず中国に展開する東芝グループのIT関連のサポート体制を強化する必要があった。さらに、中国企業や中国に展開する日系企業に、ITサービスやBPO、システム開発を包括的に提供したいという思いがあったため、我々と組むことになった。

NEC、東芝ソリューションそれぞれと設立した合弁企業がバッティングする可能性はないか?

 もちろん、その可能性はある。IT分野では、ソフト販売とITサービス提供、クラウドとシステム開発などの明確な境目はなくなってきている。そうなると、軸足を置く事業が異なるとはいえ、NECや東芝ソリューションといったパートナーの思いや戦略により二つの合弁会社が顧客を取り合う事態にもなりえるだろう。

 ただ、中国のIT市場は急速に伸びており、今後まだまだ大きくなる。市場全体が大きくなる段階では、しばらくは二社が食い合うケースは少ないはずだ。仮に、バッティングが発生したとしても、そこは個別に調整すれば済む話だ。

日中のIT企業の提携を成功させるには何が必要か?

 三つある。一つは、日本の既存の技術や製品、売り方をそのまま中国に持ってくるのではなく、中国向けに一部変える必要があるということだ。中国を重要な市場として認識し、日本とは違う市場と見てやり方を新しく考えてほしい。日本で成功した素晴らしい方法はあるのだろうが、それをそのまま中国には適用できないのが現実だ。

 二つめは、中国にある日系企業の現地法人が、スピーディーに意思決定できる権限を持つべきという点だ。中国内で交渉していても、重要な決定事項をいちいち日本の本社にお伺いを立てていては、いつまでも話がまとまらない。日本の本社は、中国企業や中国のユーザーに近い場所にいる現地法人の考え方や方針を信頼し、幹部に重要な決定権を持たせるべきだ。

 三つめは、やはりコミュニケーションだ。日本と中国は、言葉や文化が違う。協業して売り込もうとするソフトやシステム、ITサービスは目に見えないもの。それを共同で作り上げて、顧客へ販売していくには、モノを売るよりも密なコミュニケーションが重要になる。誤解のないように、確認を取りながらコミュニケーションを重ねて信頼感を作っていかないと事業の成功にはつながらない。