日本における電子政府・電子自治体の実現は、国際的に高い評価を得ていない。その大きな原因は、日本における電子化が結果的に電子化そのものに目的が移ってしまい、電子政府・電子自治体の推進目的である行政の業務効率向上や行政サービスの向上を目指すものになっていない点にある。

 一方、ここ数年の間に飛躍的に評価を高めてきた韓国では、大統領の強力なリーダーシップの下、行政のパラダイムシフトの一環として電子政府化が推進されてきた。ITコンサルタントとして、日本の電子政府や電子自治体の現場で、業務プロセスの革新や、情報システム開発などをサポートしてきた経験から、この違いについて考察する。

2010年に韓国は大躍進、日本は17位に転落

 私はITコンサルタントとして、日本の電子政府や電子自治体の現場で、業務プロセスの革新(イノベーション)や、情報システム開発などをサポートする立場にある。特にここ数年間は、個人の身分として青森市の情報政策調整監、佐賀県情報企画監などを務めており、嘱託だが公務員としての身分を持ち、電子自治体を推進する側の立場にも立っている。

 また、2010年9月からは総務省の行政管理局が主管する政府情報システム改革検討会の構成員となり、各省庁の電子政府事業について、推進上の問題点や改善点などを総務省に提言する活動なども行っており、電子政府や電子自治体サービスの現状を肌で感じる機会が多い。そのようなことから、電子政府・電子自治体システムを作る側の立場と利用者としての立場の両面を経験している。

 私自身は韓国人であり、日本に来るまではソウル市の地方公務員として働いていたこともあり、韓国の地方行政業務にはある程度の知識があった。それらの経験から見ると、韓国と日本の行政システムは非常に似ていて、日本の地方行政業務の中身を知れば知るほど、韓国と類似していることを実感している。

 なぜ両国の政府組織、行政制度、関連法制などが類似しているのか。それは過去の歴史に由来する。もともと朝鮮は王国であったが19世紀初めに日本の植民地となり、朝鮮王国は歴史から消え朝鮮半島は日本の一部になった。その後、日本は京城(今のソウル)に朝鮮総督府を設置し、日本と同様の法律や行政制度を適用した。それから36年後の1945年に日本が太平洋戦争に敗戦して大韓民国政府が樹立することになり、当時の政府は日本植民地時代の政府組織や行政制度をそのまま踏襲し続け、時代の変化に合わせながら今日に至っている。

 こうした歴史を背景にしている両国の法律や制度を比較しながら双方の経験、成功事例を発掘して提供することにより、試行錯誤などを経験せずに済むし、経済的かつ便利な電子政府・電子自治体を推進できるよう、絶えず努力してきたつもりである。

図1●国連の世界電子政府ランキング(2010年)<br>出典:国連のWebサイト
図1●国連の世界電子政府ランキング(2010年)
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 両国政府の電子政府・電子自治体推進に関するリーダーの熱意や莫大な投資、それらを推進する体制、公務員の意欲、ITベンダーの技術力、国民的なITリテラシー、通信インフラなどを見る限り、外見上ではそれほどの差を感じられない。むしろ、日本はICT先進国として、世界一のインフラを保有している国として評価されているのも事実である。

 しかし、電子政府・電子自治体の構築が進んでいるものの、国民生活に直接影響を及ぼすほど便利になったとか、行政業務の効率がよくなったとか、予算が節減されたというような話は、あまり聞こえてこない。それはなぜなのか。

 それらの問題点を解決するために、電子政府・電子自治体推進関係者は、懸命に力を注いでいるところである。このような状況の中で、日韓両国の電子政府・電子自治体の推進において、目に見えるところではなく、目に見えないところでの違いを考察する必要を大いに感じる。

 図1は、国連が発表した2010年世界電子政府ランキングである。韓国は2008年には6位だったが、2010年には世界1位に大躍進している。半面、日本は2008年に11位であったものの、2010年には17位に転げ落ちてしまった。

 いったい、日本と韓国の電子政府・電子自治体の推進にはどのような違いがあり、ここまでの差が生じるのか。このような話になると、韓国とは行政制度が違うとか、企業の商慣習が違うとか、国民性が違うとかの憶測がされるが、そのような自己肯定だけでは、真の問題解決にはならない。むしろ、ここまでの差がついた真の原因を探り出し、それらの対策を施すことが有意義だろう。