企業を取り巻く変化に柔軟に対応する基幹系を構築するためには、要件定義の段階から従来とは異なるアプローチが必要である。それは「利用部門の声を基に要件定義をしない」ことだ。

 経営統合やM&A、事業の大幅な転換などを予測するのは簡単ではない。かといって、今までのように利用部門の意見だけを聞いて要件定義をしていては、現状の業務効率化を優先するばかりで、変化に対応しづらい従来型の基幹系になってしまう。

 柔軟な基幹系の構築に必要なのは、企業の進む方向性や提供すべきサービスなど、将来の基幹系に必要な要件をできるだけ盛り込むことだ。経営者や企画部門、取引先、顧客など様々な声を取り入れることで可能になる(図1)。特に、社外との接点がある基幹系では、顧客ニーズや市場動向を要件に取り入れることが必須である。

図1●これからの基幹系を構築する際の要件定義の対象者。利用部門だけではなく、社内外の意見を広く聞くことが重要になる
図1●これからの基幹系を構築する際の要件定義の対象者
利用部門だけではなく、社内外の意見を広く聞くことが重要になる
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 実際、物流大手の山九や、「LOWRYS FARM」「GLOBAL WORK」などカジュアル衣料を手がけるポイントは、基幹系の構築に当たり、変化対応を見据えて利用部門中心の要件定義を止めた。

経営陣や顧客の声を取り入れる

 山九は13年に全面稼働予定の基幹系「Web LINCS」を構築中だ。Web LINCSのコンセプトは「10年後を見据えたシステム」である。稼働から10年経った2020年代半ばでも、利用できることを目指している。Web LINCSは、荷物の管理や輸出入、輸送、荷物の受け渡しといったロジスティクス事業全般を支援するシステムだ。

 「物流業界は変化が激しく、先を読むのが難しい」と山九ロジスティクス・ソリューション事業本部 NEW-LINCS開発プロジェクト班の鈴木一弘班長は話す。2000年に今の基幹系を構築して以降、物流業務の主流は、顧客企業の物流業務を代行する3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)になった。前基幹系を企画した90年代半ばは、ここまでの普及を想像できなかった。

 変化対応しやすい基幹系を作るために山九が採った方法は、「社外を含めて、様々な立場の人とディスカッションして、顧客の要望や新たな業務を要件として取り入れていく」(鈴木班長)ことだ。

 山九は特に顧客やコンサルタント、経営層など、利用部門以外の意見を積極的に取り入れるようにした。鈴木班長は「現場は目の前の課題を話すので、要件が現場の改善にとどまってしまう可能性がある」とその理由を話す。そして「現場の改善だけを目的とした機能では、数年後に陳腐化してしまう」と続ける。