写真7●大連双D高科産業発展のオフィスビル
写真7●大連双D高科産業発展のオフィスビル
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 「政府系投資会社も出資する、珍しい日中合弁事業だ」。中国のシステム会社である大連創盛科技の謝銀茂 董事長兼総経理は強調する。日系企業からのオフショア開発受託を主な事業としてきた同社は、日立製作所グループとの合弁会社「日創信息技術(大連)」設立を契機に、クラウドを中心とした中国市場向けITサービス事業の拡大を目論む。

 特徴的なのは、合弁会社への出資元に大連市が運営する投資会社「大連双D高科産業発展」が名を連ねることだ(写真7)。

既存のIT特区と異なるエリアにデータセンター構築

写真8●日立グループと大連創盛科技などの合弁会社が開設するデータセンターのイメージ図
写真8●日立グループと大連創盛科技などの合弁会社が開設するデータセンターのイメージ図
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 大連創盛と大連双D、日立グループの合弁会社は2012年秋にも、大連市の新しい開発特区がある「金州新区」に、延床面積1万平方メートル規模のデータセンターを構築する(写真8)。この拠点を使い、現地企業や大連市、日系企業にハウジングやクラウド、IT人材育成支援など幅広いサービスを提供する。

 大連市は、日本に近い地理的な優位性や日本語教育が盛んな土地柄を前面に押し出して、日本からのオフショア開発やBPOの受託を積極的に進めてきた。これらの業務を請け負うIT企業の拠点は、大連市中心部から南西に位置する開発特区に集積していた。

写真9●金州新区の中心部
写真9●金州新区の中心部
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 合弁会社の日創信息が開設するデータセンターは、これとは真逆の、大連市中心部から北東の位置にある。金州新区には製造業が主に進出しており、約1万5000社が生産拠点などを構える(写真9)。日創信息のデータセンターは、このエリアでは初めてのセンターだ。「着工式には大連市長も参加するなど、産業誘致を加速させる新たな拠点として現地の期待度は高い」(日立製作所の谷尾晴比古 グローバル事業推進部部長)。

 製造業の拠点の近くにある地理的な優位性を訴求しながら、同地区に進出する中国や日系、欧米企業にITサービスを売り込む計画だ。政府系投資会社が出資する点を最大限に利用し、政府関連システムの構築や運用の受託も狙う。

 欧米のIT企業は早くから中国市場に進出し実績を積み上げているが、「これらの企業は世界標準のパッケージソフトに中国企業のやり方を合わせようとする。これではうまくいかないと考える中国企業が増えている」と大連創盛の謝 董事長は強調する。さらに同氏は「パッケージ導入やシステム開発の際に、顧客の要望に柔軟に対応する日系IT企業との合弁事業について、実は中国政府も非常に注目している」と続ける。

富士通は中国電信と提携模索

 NECや日立が相次いで中国企業と提携し、合弁企業を新たに設立するなか、今後の動向が注目されるのが富士通である。同社も中国IT市場の攻略に向け、着々と布石を打っている。

 富士通は中国の通信大手チャイナテレコム(中国電信)と、クラウド分野での提携交渉を進めている。中国電信が中国国内に持つデータセンターを利用し、富士通が日本や世界5カ国のデータセンターで展開してい、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)やPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)といったクラウドサービスを中国でも提供する計画だ。

 センサーやデータマイニングなどの技術を組み合わせ農作業を効率化する「農業クラウド」なども展開する見込みである。「中国では『食の安全』への関心が急速に高まっており、食材の安全確保に向けたITやクラウドの活用が増える」(富士通の伊藤均 経営戦略室中国室室長)。

 富士通は具体的な提携時期については明言していないが、伊藤室長は「実現できるものから順次、具体的な取り組みを始めたい」と話す。早ければ2011年度内にも提携の第一弾が実現するとみられる。

 富士通はこのほか、中国の大手製造業との合弁事業や、医療ソリューション分野で中国の大手IT企業との提携交渉を進めている。