第1回では、富士通の考える事業継続マネジメント(BCM)とは、どのようなものか、ということを説明した。

 前回の内容を簡単におさらいしておこう。

  • BCMで最も重要なのは、その目的を明確にすることである
  • 富士通におけるBCMの目的は「危機事象が発生したとき、あるいはその予兆が感じられたときに迅速に対応行動が取れる組織能力を向上させる」ことである
  • その目的達成に必要なのは、ハード/ソフト/スキルの3つの要素をバランスよく強化することである
  • 被害想定に基づくのみにとどまらず、「想定外の事象が発生すること」を前提として対応行動や準備を考えておくことが本来の事業継続計画(BCP)である

 今回からは、2011年3月の東日本大震災における富士通の対応行動事例を紹介しつつ、BCMの重要なポイントについて掘り下げて説明していく。

東日本大震災による富士通の被害

 2011年3月11日14時46分。東日本を襲った巨大地震により、富士通グループ全体では53カ所の拠点が被災し、一時的にその機能を停止した。

 停止した工場には、半導体・サーバー・携帯電話・デスクトップパソコンなどの主要製品を生産する9工場を含んでいた。

 幸いなことに、甚大な津波被害は免れたものの、大きな揺れは、工場設備の多くに深刻なダメージを与えた。さらに、その後に行われた計画停電も影響が大きかった。特に栃木県内の工場では1日のうちに2回もの計画停電に見舞われ、生産活動の全面停止に至った。

 富士通は各工場や拠点の現場を支援する全社体制を即時に立ち上げ、全社・現場が一丸となって必死の復旧作業を行った。ほとんどの拠点では2週間から1か月以内に再開できた。

 しかしながら、ほぼフル稼働していた生産拠点が何カ所も同時に停止したことで、被害は物理的なものにとどまらず、事業へ大きな影響を与えた。納期遅延や新規販売機会の逸失、主に海外顧客からの信用低下などだ。こうした取引面の被害は未だに尾を引いている。危機に対応できる会社であることを具体的に顧客に伝え、信用回復を図ることはまさに喫緊の課題である。

行動記録の重要性

 富士通では、発生直後から完全復旧にいたるまでの詳細な行動をすべて記録に残し、現在も分析を続けている。改善課題を抽出し、今後の改善につなげるためだ(図1)。

図1●行動記録・振り返りの必要性(改善の視点)
図1●行動記録・振り返りの必要性(改善の視点)
出典:富士通総研

 できなかったことは何か、もっと上手くできたのではないか、そのための課題はどこにあるのかを深く掘り下げていく。明らかになった様々な課題をクリアすることが、BCP・BCMの高度化には最も効果的である。

 しかし社外で話を聞く限り、ほとんどの企業は、改善に必要なそうした行動記録を整理せずに放置しているようだ。記録を集めていても行動結果(議事録やメール文章、報告資料など)のみで、プロセス情報(事象の発生からエスカレーション、情報集約、判断、指示、結果までの流れと要した時間)まで記録に残して整理している企業はまずない。

 企業では、1995年に阪神・淡路大震災、2004年に新潟県中越地震を経験したにもかかわらず、「過去の災害体験の学ぶべき重要な部分が組織の知識や行動に引き継がれない」という話が珍しくない。当時の情報を記録にまとめる努力を怠ってしまえば、その多くが忘れ去られるのは当然である。日頃の業務や生産工程の改善活動では多くの組織に浸透しているカイゼン手法を、非常時の行動の改善にも適用することを組織のルールとするべきである。