クラウドの進展、スマートフォンの普及、ソーシャルの台頭――。激変する情報化社会においてITリーダーが自らの価値を高めるには、ITの役割をゼロから発想し直す必要がある。そのための示唆に富んだ、米ガートナーのリサーチ部門総責任者Peter Sondergaard氏をはじめとするアナリストたちの講演を5回に分けてお届けする。これは、米オーランドで2011年10月16~20日に開催された「Gartner Symposium ITxpo 2011」のキーノートをまとめたものである。講演の動画は、ガートナーの日本語サイトから視聴できる。
 前回は、ビジネスの新しいアプローチ(ポストモダンビジネス)を説明した。これらは「クラウド」「ソーシャル」「モバイル」「情報」によって実現される。新たな発想に基づいてダイナミックに展開されるポストモダンビジネスは、非常に複雑なものに思えるかもしれない。そこで今回は、パソコンからモバイルへの「ビッグシフト」で不可欠な「シンプル(簡潔)さ」について、米ガートナーでリサーチバイスプレジデントを務めるHung LeHong氏が解説する。

 ネット検索、Facebookの更新、ツイート、電子メール――。ポストモダンビジネスによりIT活用を促進するほど、これらの作業に時間をとられがちだ。どうすれば効率よく作業を進められるのだろうか。

 そこで求められるのが「シンプル(簡潔)さ」である。新たな発想のIT活用では、顧客と従業員の両者に対してシンプルさを提供しなければならない。その一つの根拠が、パソコンからモバイルへの「ビッグシフト」である。我々は、スマートフォンやタブレット端末がもたらすシンプルな作業環境に魅力を感じている。開発者もこの流れに乗じ、これらの端末向けのアプリケーションを率先して開発している。

 2015年までにスマートフォンとタブレット端末をターゲットにしたモバイルアプリケーションの開発プロジェクト数は、パソコンアプリのそれを上回る見込みだ。いずれ、モバイルアプリとパソコンアプリの比率は4対1になるだろう。もはや、パソコンは「王者」ではない。パソコンはもう、我々が何かをしようとしたときに頼るべき唯一のデバイスではなくなっている。

 その一例を紹介しよう。災害が発生し、その状況を至急報告してもらう局面では、ユーザーに使用するデバイスを強いることはできない。そこで構築されたのが、情報収集支援システム「Ushahidi」である。

 Ushahidiによって提供されるアプリケーションは、非常に簡単に使える。取扱説明書も要らず、電話、SMS(Short Message Service)、電子メールなど、ほとんどの人が持っているデバイスとツールを用いて、災害に関する情報を報告できる。

 2010年1月のハイチ大地震発生時にUshahidiのシステムは、「Aidez moi! Je suis coincee(助けて!動けません)」といった数多くのSMSメッセージを受信した。これは携帯電話で使えたことが大きい。多くの人々が既に所有しているデバイス向けにアプリを提供することにより、尊い人命が救われたのだ。

タイトル

シンプルさのためにシステムをゼロから見直す

 Ushahidiのようなシンプルさを取り入れるために、システムをゼロから見直さざるを得ない場合もあるだろう。これをまさに行ったのが、米オンライン証券大手、Charles Schwabだ。

 Charles Schwabは、オンラインシステムのあり方をゼロから見直した。ユーザーが本当に求める機能を徹底的に追求し、その機能を快適に使えるわかりやすいユーザーインタフェース(UI)を備えたシステムに作り変えたのだ。Charles Schwabが示したように、顧客の真のニーズと意図を理解して応えることで、よりシンプルでありながら質の高いシステム環境を構築できる。

 モバイルの世界へのビッグシフトが進むなか、シンプルさの追求はより重要になっている。これが、ガートナーがコンテキスト・アウェア・コンピューティングを重要視する理由だ。コンテキスト・アウェア・コンピューティングにより、顧客の意図を理解できるようになる。その結果、よりシンプルでありながらも、質の高い環境が構築できる。